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act.1誘惑クローバー<46>

* * * * * * 始業式を当然のようにサボった京介はもう自分の場所となりつつある屋上のフェンスに背中を預けて座り、煙草をくわえていた。もうそろそろ式が終わる頃だろう。そうしたら葵を迎えに行くか。そんなことを考えながら。 だが、京介が腰を上げようかとしたとき、屋上の扉が鈍い音を立てて開いた。 そこから現れたのは京介もよく見知った人物だった。背が高く、髪はドがつくほどの明るい金髪で、見るからに軽そうなその男は、京介の姿を確認するとへらへらと笑いながら近づいてきた。 「おこちゃまが喫煙なんかしたらあかんよ?」 了解もえずに京介の横に座ると、その男は煙草を取り上げて自分が吸い始めた。深く肺まで染みこませ、そして白い煙を吐き出す。その一連の行動は非常に慣れているように見えるが、京介以上に崩しているとはいえ制服を着ている以上は生徒に違いない。 「いやん、間接ちゅーやんな。どうする?ほんまにちゅーしちゃう?」 見た目どおり中身も軽いらしい男は、本当に京介へと顔を寄せてきた。が、京介は心底うざったそうに、近づいてきた額に思い切り頭突きをかましてやった。ごつん、と嫌な音が屋上に響く。 「いったー、なにすんの」 「上野先輩、その似非関西弁やめてください」 「うっわ、腹立つわー。関西弁てモテるんやで?知らんの?」 「……似非でも?」 男から煙草を奪い返すことはしないのか、したくないのか。京介は上野先輩と呼んだ男をにらみつけると胸ポケットからまた新しい煙草を取り出して火をつけ、くわえはじめた。 だが、あまり構ってくれない京介に拗ねたのか、男は京介よりも大きな図体を小さく丸めて親指の爪をかぎり頬を膨らます、なんていうべたなことをし始めた。 それを見て、京介はまたうんざりと眉をひそめた。 「すみません、全然可愛くないんでやめていただけませんか」 「ほんまに酷い奴やな、自分も似非敬語のくせに」 「……うっせー幸樹(こうき)。何の用だよ」 やっと慣れない敬語をやめた京介は、葵には見せない顔でニッと幸樹を見やった。 幸樹は京介の中等部からの悪友だ。年は幸樹のほうがひとつ上。危ない家系の長男坊で、掴みどころがなく一匹狼のような幸樹とひょんなことで知り合ってから自然と馬が合い、今までこうしてつるんでいる。

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