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act.1誘惑クローバー<50>
「あれ?京介おかえりー。寂しかったで?藤沢ちゃん見つかった?」
「おい、てめぇ」
「なに、なんなん、怖い顔して。藤沢ちゃんで抜いてなんかないで?」
鬼のような形相で近寄ってくる京介に恐れをなして、ごろごろとコンクリートを転がっていた幸樹はそう馬鹿な告白をしてしまう。
誰も疑ってなどいないのに否定することなど、真実でしかないのだ。証拠に、丸まったティッシュペーパーが幸樹の周りにごろごろと転がっている。葵の痴態を想像したら収まりがつかなくなってしまったのだろう。
「寮のエレベーターのカード貸せ。仮にも役員なんだから、持ってんだろ?」
本当はそのティッシュに突っ込みたかった京介だが、今は葵の保護が先だ。ぐっと我慢してカードを寄越すよう幸樹に要求した。やっと屋上まで上がってきた都古は、ずっと動きっぱなしできつかったのか、苦しそうに肩で息をしながら京介と幸樹の様子を入り口から眺めている。
「なんなん、急に」
「いいから貸せ。そしたら葵でオナったの許してやる」
「嫌や、京介冷たいんやもん。もっと優しくしたってや」
「うるせぇ、馬鹿なこと言ってねぇで寄越せって」
さっき放置していったことを根に持っているのか、幸樹はなかなか折れようとしない。京介が蹴ろうが小突こうがそれは変わらない。
けれど、ふと幸樹は面白いことをひらめいたかのようにカードを渡すことを承諾した。
「じゃ早く渡せ。葵があぶねぇかもしんないんだよ」
「んー、でもただであげられんわ」
「何すりゃいいんだよ」
「あそこの美人ちゃんがとびっきり濃いキスしてくれたらええよ」
「はぁ!?」
美人ちゃん、と指差したのは間違いなく入り口に立っている都古のことだ。つまり都古がキスをしてくれたらカードを渡してやってもいい、と幸樹は条件を出したのだ。
「お前どんだけ色欲にまみれてんだよ」
「だって、こうでもしないとチュー出来る機会なさそうだから」
「当たり前だ」
都古は人に触れられるのをひどく嫌がるし、触れるのも嫌がる。ましてキスなんて葵以外とするわけがないだろう。それを分かっているからこそ、幸樹はこんな条件を選んだ。
それに見目が素晴らしく整っている上、極端にバリアを張っている都古がこんな条件を出されてどんな反応をするのか、色欲魔であり狼な幸樹はちょっぴり興味があったのだ。
それぐらいの軽い気持ちで言ったものだ。呆れ果てる京介の顔を見ても、そろそろカードを渡してやらないと可哀想だろう。
幸樹はそう思ってポケットに手を入れようとしたとき、不意にぐっと襟首をつかまれて上を向かされた。
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