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act.1誘惑クローバー<51>

「え?……んぐ」 幸樹を上向かせ唇を重ねたのは紛れもなく都古だ。そしてご希望通り、都古から舌を入れてしっかりと口内を荒らしている様子。そしてキスを受けている幸樹は、自分で言いだしたくせにまさか来るとは思わなかったのかひどく驚いた様子で反撃も出来ずにいる。 「おい、まじかよ……都古」 そしてそんな二人の思わぬキスシーンに京介は唖然となって目を逸らした。 幸樹がどうせただの冗談で言った条件だろうことは付き合いの長い京介にはお見通しだったし、いい加減焦らし飽きてきたことも分かっていた。だから幸樹の条件を真に受けてキスしてしまった都古が可哀想でならない。 「……カード」 長いキスを終えて唇を離した都古は、濡れた唇をぬぐうこともせずにせっかちにカードを求めてきた。もちろんそこまでした都古に幸樹も焦らせるはずがない。心のどこかでは、このままエッチして、なんてお願いしたら乗ってくれそうだ、なんて良からぬことが思いついてしまったが、さすがに多少はある幸樹の良心が痛んだ。 「はい、ごちそーさん」 大人しくカードを都古の手に置いてやる。その手がひどく血色が悪く、また震えているのを見て、本当に可哀想なことをしたと幸樹は反省した。都古相手に葵関係の冗談を言ってはいけない、とも学んだ。きっと主人のためならこの猫はなんだってやりかねるだろう。 「待てって都古!」 カードを貰ったと同時にまた踵を返して屋上を出て行った都古を京介は慌てて追いかけていく。が、出て行くとき一旦ぴたりと立ち止まって振り返ると、幸樹に向かって叫んだ。 「今後一切都古からかうんじゃねぇぞ。あと葵にも手出したらぶっ殺す」 それだけ叫ぶと京介も屋上を去って行った。 京介が必死で先を行く都古を追いかけると、二階分降りたところでやっとその姿を視界にとらえることが出来た。と思ったら、急に都古の体勢が崩れた。 「都古!」 受け止めてやろうとしたが、少しのところで間に合わず都古の体は踊り場に倒れこむ羽目になってしまった。すぐさまかけよると都古はさっきよりも一層青くなった顔で口元を押さえている。 「きもち、わる」 「あんな奴にキスかますからだろーが、アホ」 走り続けて疲労が溜まっている上に、都古にとっては嫌悪感しかない他人との接触、しかもキス。葵が居ないという精神的な疲れもあいまって、もう立てないほどぼろぼろになってしまったようだ。

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