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act.1誘惑クローバー<52>

「やばい、吐く」 「ここじゃやめろ。我慢しろ」 「……アオ」 「動くな、寝とけ」 吐きそうだとうずくまりつつも、まだ葵を探すという任務を遂行しようとしているのか立ち上がろうとする都古を京介は無理矢理壁に押し付けて座らせた。しばらくそうして大人しくさせているとぷつんと糸が切れたように都古は動かなくなった。 様々な格闘技を心得ていて体もしっかりと鍛えられている都古。だが、精神的には非常に弱いし、それに華奢な体は強くても持久力がない。 京介はぐったりとした友人をみおろしてしばらく考え込んだあと、携帯を取り出してある番号を呼び出した。 『もしもーし、京介っち?』 数回のコール音のあと出たのは双子バカップルの元気なほう、七瀬だ。その緊張感のない声を聞いて、京介は確かに綾瀬の番号にかけたよな、と自問自答をした。 『もしもし?生きてますかぁ?』 「頼むから綾瀬に代われ。お前じゃ話にならない」 『はぁ?ひどくない?切るぞコラ……え?代わるの?なんで?』 どうやら凄み出した七瀬から甘ったるい声が溢れたところを見ると、綾瀬が説得して携帯を取り上げようとしてくれているらしい。頑張れ綾瀬、と心の中で京介が応援しているとしばらくの押し問答のあと七瀬とは違う落ち着いた低音が携帯から響いてきた。 『悪いな、西名。どうした?珍しい』 本当に双子なのかと疑いたくなるほどのギャップに京介はホッと安堵した。そしてすぐに状況を説明し、都古の世話を任せたいと告げた。都古をそういう対象としてみる輩も多いし、倒れたまま放置しておくのはあまりにも危険だからだ。 急な願いにも綾瀬は快く引き受けてくれ、すぐに駆けつけてくれた。七瀬は二人の時間を邪魔されて不満そうだったが、それでも根はいい子である。しっかりと都古の看病を約束してくれた。 そこでやっと京介は都古が握り締めたカードを取り、寮へと向かうことが出来た。 京介は都古のおかげで手に入ったカードを使って忍の部屋へと走り、ほとんど使われていなさそうなインターホンを押した。本当なら分厚い扉を蹴破りたいところではあるが、生憎力自慢の京介でもそう簡単に太刀打ちできそうな代物でないことはパッと見てわかった。 だから大人しく忍が出てきてくれるのを待つしかない。もし出てくれなかったらどうしようか。京介がなかなか出てこない忍に、そう思案を始めると、やっと重そうな扉が少し開いてくれた。

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