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act.1誘惑クローバー<55>
「いい子にって。あぁ、櫻についていったことか?だから言っていただろう。お前は危機感がなさすぎると」
忍は葵の謝罪を自分との約束を守らなかったことへのものだととらえたが、葵は否定するように小さく首を振って答えた。
「……お仕置き、ちゃんとできなかった、から」
そして”だから櫻先輩に嫌われちゃった”なんて言って葵が目元を拭ったから、完全に涙がこぼれてしまったのだと分かる。
うまく丸め込まれてレイプまがいのことをされ、一体どうしてこんなことを言えるのだろう?明らかに悪いのは櫻であるのに、その櫻に嫌われることを嫌がって泣くのだろう?
本当に何も分かっていない葵の様子に、忍は痛んできた頭をおさえた。
「葵。自分が何をされたのか、あれから何をされるところだったのか、分からないのか?」
「……だから、僕が悪いことしたお仕置き?」
きょとんとした顔で小首を傾げる葵を、忍はなぜか無性に抱きしめたくなった。
「会長さん?」
「……そうだな、葵は何も分からなくていい」
いきなりの抱擁に驚く葵に忍は構うことなく更にきつく腕に力を込めた。そしてさらさらと流れる髪に触れ、そっと撫でてやる。そうすると、葵の体からはスッと力が抜けて大人しく忍の胸にもたれかかってきた。
シャンプーの香りだろうか。葵の髪を撫でてやるたびにふんわりと忍の鼻腔をくすぐる甘い香りは癖になりそうだ。小さくて柔らかい体も、また然り。
もし出来る事なら自分も、櫻よりうまくなだめて葵を抱いてしまいたい。何度言っても、またあんなことがあった直後でも平気で自分に体を擦り寄せてくる無防備さが憎らしいほどだ。
忍の性癖はというと、櫻のものとはまた少し違う。甘い言葉と甘いタッチでじっくりと快感の坩堝に陥れて自分無しでは居られないほどの体に育ててみたい。
忍はシャツの隙間から覗く葵の白い首筋にごくりと喉を鳴らしながらも、だがしっかりと理性を保とうと努力した。
そしてふと葵を抱こうとしていた櫻のその後が気になりだした。あれだけ葵を乱れさせていたのだから、いじっていた側の櫻も当然高まっていただろう。
「……一人でヌいたのか?」
あの櫻が一人で処理をしたとなると面白い。忍は少しその光景を描いて小さく吹き出してしまった。
「……会長さん?ヌいたって、なんですか?」
だがつい声に出して笑いまでしてしまった忍に、葵は話の前後がつかめずに疑問一杯の表情を浮かべて尋ねた。
「いや、ヌくはヌくだろう」
それ以外にどう言えばいいのかと忍は返したが、葵はそれでもさっぱり分からないらしい。
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