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act.1誘惑クローバー<57>
* * * * * *
「ん……あれ、もう夜だ」
葵が息苦しさを覚えて目を覚ますと、窓の外はもうとっぷりと日が暮れて真っ暗になっているのが見えた。そして横になったまま首だけ左右に動かして両隣を確認すると、息苦しさの原因がよく分かった。
自分を挟み込むようにぎゅっと抱きしめている都古と京介。
だから苦しいといっても、温かな苦しさだった。むしろずっとこの間におさまっていたいと思うくらいだ。
枕もとの時計を確認するともう夜の七時。確か京介が迎えに来てくれて自分の部屋に戻ったときは昼を過ぎたばかりだった気がする。忍の部屋でもしばらくのあいだ寝かせてもらっていたのに、今日は随分と寝すぎである。
でもなんだか体はいつもよりもずっと疲れてだるかった。その原因は櫻にされた行為といっぱい泣いたせいだ、ということは葵にも分かる。
今もまだ少し眠い。
京介と部屋に帰るとすぐに迎えてくれたのは今にも泣き出しそうなほど青い顔をした都古と、綾瀬と七瀬の三人だった。どういう成り行きで三人が自分の部屋に集まっているのだか葵には分からなかったが、なんだか嬉しくてまたぽろぽろと涙が零れてしまったのを覚えている。
そのあと綾瀬と七瀬は自分の家へと帰ってしまったが、京介と都古は今日はずっと一緒に居てくれると約束してくれたのも葵にはとても嬉しかった。
それからお昼寝をすることになってベッドに入ったはいいが、しばらくはさすがに寝付けなくてずっと二人に挟まれて頭や背中をやさしく撫でてもらっていた。
都古になぜか消毒してくれなんてキスをせがまれ、京介には消毒してやるなんてキスをせがまれ、余計寝付きにくくされたのは事実だが、こうして夜までたっぷりとお昼寝をしてしまったくらい結果的には熟睡できた。
葵はそこまで思い返して、でもやっぱり眠気が襲ってきて一番安心できる二人の腕の間という葵専用のシェルターにもぐりこんで、そして目を瞑った。明日櫻に謝ろう、とそんなことを考えながら。
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