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act.1誘惑クローバー<58>
* * * * * *
「「すみません、藤沢先輩呼んでもらえますか?」」
翌日の昼休み、チャイムが鳴ると同時に、葵のクラスである2-Aの教室に客が訪れた。
4限が終わってすぐというそのあまりのスピードと、寸分狂わぬ二人分の声音の異様さにドア付近の生徒たちは皆一斉に振り返ったが、客の顔を見て何事もなかったかのように各々授業の後片付けを始めた。
見知らぬ双子、しかも一年に、クラスでも過保護にされている葵を取り次いでやる気はないのだ。それに、葵自身も奥の席にいるせいで自分に会いに来た双子の存在を全く気付いていない。
「「無視かよ」」
クラスの生徒たちのあからさまな行動の理由がわからない二人は、こうして小さな声で悪態をつくことしかできない。かといって上級生だらけの教室のなかに突っ込んでいく勇気も、入りたての二人にあるわけはない。
「……葵ちゃんに何の用?」
途方にくれていると、やっと一人が双子に話しかけてきてくれた。
葵よりも小柄な人物の登場に二人は面食らい、そしてすぐにその彼が可愛い顔には似合わないほど疑わしいようなきつい目つきを浴びせているのに気付いてつい素直な後輩の仮面をかぶるのを忘れて睨み返しそうになってしまった。
けれど、そこは演技派な双子。ぐっとこらえて中学時代”かわいい”と女子に人気だった笑顔を浮かべてみせる。
「入学式の際に藤沢先輩にお世話になったもので」
「僕達、そのお礼を言いたくて」
「ふーん、君らが噂の新入生ね。七、知ってるよ」
自分のことを”なな”なんて呼ぶのは愛らしいが、まだ目線は厳しい。そしてまだまだ葵を呼んでくれる気配はないらしい。
「噂って、もう僕達そんなに知られてるんですか?」
「編入生なんて珍しいからね。それに七、情報通だし」
聖が比較的穏やかに彼の話に乗ってみたが、自慢っぽく胸を張られただけで終わってしまう。
「藤沢先輩、いらっしゃいませんか?」
「あのね君らのせいで葵ちゃんがお仕置きされたって言ってもいいくらいなんだよね。だから会わせたくなんかないんだけど」
「「お仕置きって?」」
ぎろっと睨んでくる彼の意図が双子には分からなかったが、本当に彼は自分たちに怒っているようだった。
無理もないだろう。双子に話しかけたのは葵のクラスメイトの七瀬。昨日どんな成り行きで葵が拉致され傷つけられたのか七瀬は京介から教えてもらっていた。だから拉致の原因の一つが、新入生と遊んでいたせいだということも知っている。
七瀬にとって葵は大事な大事な友人。見てすぐに分かるほど葵に惚れこんでいそうな双子に、あっさりと引き合わせてやるのも嫌だった。
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