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act.1誘惑クローバー<59>

「七ちゃん、何やってるの?」 でも七瀬が双子との睨み合いを続けていると、問題の本人が出てきてしまった。 「都古くん。こいつらだよ、例の新入生。やっちまえ」 七瀬は葵の質問には答えず、葵にべったりと覆いかぶさっている都古にそう指示を出した。 都古は主人でもない七瀬に偉そうに指図されて無表情だった顔に少し不快感をにじませたが、七瀬同様に事の顛末はしっかり聞いている。 葵と遊んでいたというのも腹立たしいし、そのせいで葵が怖い目に遭ったというのも許し難い。後者は直接双子のせいではないのだがそんなことは都古や七瀬には関係ないのだ。 でも大人しい後輩のふりをしていた聖と爽だって、わけのわからぬまま七瀬や都古から睨みつけられればそれを返したくもなる。 普段のままでも力のある猫目を吊り上げて威嚇する都古、垂れがちな目を尖らせる七瀬と聖・爽の激しい睨み合いがすぐに勃発した。 「ね、どうしたの?」 けれど、自分を挟んで刺々しい空気になっているなどと鈍い葵は気付けない。そもそもきつく抱き寄せてくる都古と、目の前に立つ七瀬のせいで自分への訪問者の存在すら分かっていない。 だからこの意味の分からない沈黙の理由を探ろうと、葵は都古の腕から少し体をずらし七瀬の背中から顔を覗かせてみた。 「あ、入学式の時の」 「「先輩」」 葵が訪問者の正体に気付いて声を上げたのと、やっと目当ての先輩を拝めて聖と爽が嬉しそうに叫んだのはほぼ同時だった。 「こんにちはっ」 都古と七瀬のため息の理由なんて葵にはやはりわかっていないらしい。二人が一目惚れしたあの愛らしい笑顔でこんな普通の挨拶をかけてくれた。 自分たちが整った容姿をしていることも賢いこともよーく自覚している小生意気な双子だが、その葵の笑顔に本気で舞い上がってしまい頬すら赤らめている。 「もしかして、僕に用事?」 さらさらの髪を揺らして二人に尋ねる葵もまたなんだか嬉しそうに見えるのは決して聖と爽の勘違いなどではない。 周囲に思い切り子供扱いされて可愛がられている葵は、年上ぶったり先輩ぶったりすることに非常に憧れを抱いている。 年下の生徒たちだって葵に少しでも近づきたいと願っているものは多い。だが実際周りのガードが恐ろしすぎてそれを突破してでも葵と、なんて勇気のある者は一人もいなかった。そのせいで葵から後輩に歩み寄っても皆逃げていく始末。 葵の願望が叶えられることは今までちっともなかったのだ。だからこうして出会ったばかりとはいえひとつ年下の彼らが訪ねて来てくれたのが葵にとってはひどく嬉しいものだった。

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