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act.1誘惑クローバー<60>
「あの、何の用かな?」
訪問の目的が自分かという問いに頷いてくれた双子に、ますます頬をほころばせた葵は少しどきどきと胸を弾ませながらまた質問を重ねた。このまま仲良くなれたらいいななんて双子と似たことを考えている。
ただ決定的に違うのは双子は葵と仲良くなってゆくゆくは恋愛に持ち込もうと画策していることだろう。
「「昼食、一緒に食べませんか?」」
「お昼ごはん?もちろんいいよ!みんな一緒だけどいーい?」
でも葵は一昨日の夜もそして昨夜も双子の脳内でものすごく破廉恥なことをさせられていたとは知らず、可愛い後輩の申し出に二つ返事で了承してみせた。
でも生憎”みんな”の中のメンバーに入っている七瀬と都古は不服そうな顔をしている。いや、しているだけでなく思い切り口に出して抗議をしだした。
「なんで一緒に食べなきゃいけないの?」
「アオ、誰?」
七瀬のストレートな不満はともかくとして、都古の言葉に葵は困った。
「えっと……新入生の絹川聖くんと、爽くん、だよね?」
「ほんっとに葵ちゃんはもう」
「危な、すぎ」
不安げに小首を傾げる葵の姿に、名前しかロクに知らないのだろうことはすぐに分かった。
ぼんやりとしたところが多く、見知らぬ人にもよく騙される葵の性格を二人はよく知っている。少しは自分の見た目にも自覚を持ち、警戒心も持ってほしいところだがそんな注意は大いに無駄だ。だから周りが過保護にならざるをえない。
「あ、すみません。ちゃんと自己紹介してなかったですよね。俺は1-Bの絹川聖と」
「同じく1-Bの絹川爽っす。今年から編入してきました」
七瀬には頭を小突かれ、都古にぎゅうと抱きしめられる葵に、双子はにっこりと遅れた自己紹介をしてみせた。葵の小姑たちにはこっそりと舌を出して挑発するというオプション付きで。
「うん、よろしくね。あのね、僕は2-Aの藤沢葵」
紹介を真面目にし返す葵は、勉強は出来るが抜けている。自分を訪ねて来てくれたということは二人がもう名前もクラスも知っている、なんて微塵も気づいていないようだ。
美少年っぷりを生かして情報を集めた聖と爽は、やはり聞いていた通りのそんな純朴さにますます葵を好きになってしまった。
でも葵と仲を深めるためには、葵の周囲をどうにかしないといけない。
情報でたびたび名前の出てきた葵の友人の中で、きっと葵にべったりとしているのが歌舞伎座の息子で寡黙な”烏山都古”、葵を叱りつつ自分たちへ睨みをきかせてくるのが”羽田七瀬”だろう。
聖と爽は頭の中でそう結びつけながら噂どおり手強そうなメンバーたちをどうやって倒して行こうか、計画を立て始めていた。
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