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act.1誘惑クローバー<61>
「アオ、なんで……よろしく?」
手強い中でも特に手強い彼、都古はただでさえ多いライバルが増えることに苛立った様子で二人の計画を邪魔しようとしだした。
クールな外見にぴったりの無表情さではあるが、葵に頬を寄せて囁く声は甘みを帯びた低音。誰に対しても基本は無視だという彼が、葵に対してはどれだけ甘えん坊に変貌するかは聖も爽も噂に聞いて知っていた。
葵が飼い主で都古が猫、なんていう不思議な関係にあるということももちろん知っている。どんなものなのかと思ったものだが、べったりとくっつく二人を目の当たりにしてなんとなく聖も爽も理解した。
「一緒にお昼食べよって。いいよね?」
都古の嫉妬などちっとも理解しておらず、それをお腹がすいている故の苛々だと解釈している葵は甘えてくる都古に頬笑みかけている。
「やだ」
「なんで?きっと、みんなで食べたらもっともっと楽しいよ?」
男のプライド、なんてものはまるっきりかなぐり捨てて、本能の赴くままに甘えて全身で好意を伝える都古と、それを少し違った観点ながらしっかり受け止めている葵。きっとこれが日常で、二人の当たり前、なのだろう。
「嫌……ですよね。俺たち勝手でした。ただの迷惑、ですよね」
「すみません、いきなり会いに来てこんな……」
だが、双子は葵をゲットするためにもそんな二人の間に割り込む術を身につけなくてはならない。優しくて甘そうな葵のハートをくすぐるために、試しに涙目でしょんぼりとした演技をし始めた。
「あ、違うの。迷惑なんかじゃなくて、むしろ嬉しいし……みゃーちゃんちょっと人見知り、みたいなとこがあるから」
「ねぇ葵ちゃん、もう七、お腹ぺこぺこなんだけど。早く行こうよ」
「え、あ、うん。そうだよね、でも、どうしよ」
双子の演技にすっかりと騙され、拗ねる都古をうまくなだめられず、挙句の果てに七瀬に催促され、葵はパニック状態に陥ってしまった。
でも双子のように偽物ではない涙を大きな目に浮かべておろおろする葵は、男たちの目から見ては可愛いだけ。
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