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act.1誘惑クローバー<63>

「あぁ入学式ん時、葵と居た奴らか」 「「はい。あの節はどーも」」 あの時は葵を捕獲するのだけが必死であまり周りを見ていなかったが、京介の記憶は正しかったらしい。でもどーも、なんて挨拶をされる覚えは全くないし、このさわやかな笑顔が猫かぶりに思えて仕方ない。 正直どう見ても葵狙いの輩を昼食に交えたくない気持ちは、京介も都古と同じだ。 「葵先輩にはご了承いただいたんですが、烏山先輩にはあまり快く思っていただけていないようで」 「ご迷惑ですか?俺たち」 だが、遠慮がちな台詞のくせに双子はちっとも帰る気配など見せない。あぁ迷惑だ帰れ、なんてはっきり言っても葵に了承をもらっているということを武器に粘りそうなのは読めている。 それに葵だって加勢してくるだろう。 「とりあえず腹減った。行くぞ、葵」 「ん、今日ね、オムライスがいいの」 「ほんとお子様だな、お前は。おら、馬鹿猫も拗ねてねぇで来い」 面倒事があまり好きではなく、本当に腹が減ってしょうがない京介は双子に返事はせずとりあえず食堂に移動することに決めた。ここで揉めていても埒が明かないだろう。 葵を抱き上げたままで京介が歩き出すと不満顔の都古は渋々、聖と爽はしてやったりという顔でついてきた。 今日は一緒に食べるつもりで居たはずのもう一組の双子はなぜかこの場から忽然と姿を消していたが、どうせ今頃どこかでいちゃつきだしているのだろう。二人の世界に入ってしまうと戻ってこれない彼らが何も言わずに消えてしまうのは日常茶飯事だ。 だから京介は気にも留めずに、まだ後ろでぎゃーぎゃーいがみあっている都古と双子の声と、そして大人しく抱かれたままオムライスにケチャップで描く絵を何にしようかと相談してくる葵の声を聞きながら、校舎の1階にある食堂に歩を進めた。 高等部のすべての生徒が不自由することなく一斉に食事をとれるだけの席数がある食堂は非常に広い。天井も、他の階に比べると高く造られており、ガラス張りの壁面との相乗効果で余計に広々と明るく見えるよう設計されている。 その居心地の良さは葵も大層お気に入りで、たまに葵の気分で食堂の横に併設された購買のパンを買って中庭や温室などで過ごすこともあったが、ほとんど毎日昼食はこの食堂でとることになっている。 それをどの生徒たちも知っているため、葵が数ある席の中でも一番お気に入りの席は、いつだって空席を保たれていた。 今日初めて高等部の食堂を使う一年たちはそんな暗黙のルールを知らなかったが、きっちりと上級生に指導されたようで本日も窓際奥の最も日当たりのいいテーブルは空いている。

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