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act.1誘惑クローバー<66>
* * * * * *
「じゃあ、行ってくるね」
「え、行くって、どこ?」
「生徒会だよ」
放課後当たり前のように告げてきた葵に、都古は耳を疑った。
体調がすぐれない時でさえ生徒会活動に励むほど、確かに葵は真面目だ。でも何もあんなことがあった直後に生徒会に顔を出すなんて予想だにしなかった。
「もう、行くこと、ない」
都古は元から生徒会に参加するのは反対だった。この機会にやめさせてしまおうと、つい口調がきつくなる。
日ごろから葵をいじめるだけでは飽き足らず、性的な乱暴まで働こうとしだした生徒会にこれ以上を葵を置いておきたくはない。そう都古が思うのも無理はなかった。
「でも……今日行かなかったら、きっと余計に気まずくなっちゃうから。ちゃんと謝って、仲直りしたいんだ」
葵は、しっかりと腕を掴んでその場に引きとめようとしてくる都古が何を言わんとしているのかはすぐに分かったようだが、やんわりとそれを拒んだ。
葵だって本当はまだ櫻に会うのは怖いし、生徒会にも行きたくない。でも、ここで逃げてしまえば、前までの自分へと逆戻りすることになる。
髪色や引っ込み思案な性格をからかわれ、いじめられた幼少期の記憶から抜け出せず、小学校や中学に上がっても葵はなかなか学校に馴染めなかった。いつも京介の背中に隠れて、葵は一日を過ごしてきた。
けれど、今は遠く離れた地にいる人が、それではダメだと教え、少しずつ葵を外の世界へと連れ出してくれたのをきっかけに気負わずに会話を楽しめる相手が随分と増えた。
櫻もその一人。生徒会での関わり合いをなくしてしまえば、すぐにその関係は終わる気がして葵にはそちらのほうが怖かった。
「謝る、って。なんで、アオが?」
「きちんと仕事しないで迷惑ばっかりかけちゃったから。だから櫻先輩、あんなに怒らせちゃったんだし」
恋しすぎて櫻があんな暴挙に出たとはちっとも理解せず、ただ仕事でヘマをした罰を与えられたのだと受け取っている様子の葵に、都古は一気に脱力してしまう、
とことんお子様で、変な方向にまっすぐ育ってしまっている、そんな葵のことを都古は大好きだが、こんなときには非常に厄介だ。
「ちゃんと許してもらえるように、みゃーちゃんも応援してて。おねがいっ」
そのうえ、こんなお願いまでされては引きとめることこそ葵を傷つけかねない。
すがるように見上げてくる葵に、都古は渋々”がんばって”なんて本心と真逆も甚だしい言葉を吐かざるを得なかった。
「ありがとう」
満面の笑みで教室を走り去る葵の小さな背中を見つめ、都古は悔しさを紛らわすためにただ手の平に爪が食い込むほど強く拳を握ることしか出来なかった。
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