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act.1誘惑クローバー<68>

「だから、やっぱりもう一回、お仕置きしてください、って頼んだほうがいいですよね」 「……え?」 奈央が葵の発言を理解するのに数秒かかった。だが、理解しても、それを共感してやることは出来ない。 「そ、それはやめたほうがいいと思うよ」 至って本気そうな葵をきちんと止めてやらなければ、また櫻に火をつけて今度は未遂ではおさまらないかもしれない。奈央の声に必死さがにじみ出ていた。 「とにかく、櫻のことなら大丈夫だから、行こう?」 奈央の気持ちがどこまで伝わってくれたか分からないが、葵はとにかく危険な思考をそれ以上進ませるのはやめて素直に頷いてくれた。でもその表情はこれから櫻に会うのだという不安に曇っている。 奈央が開けてくれた扉をくぐる時、葵の顔は伏せられていた。中の様子をすぐに視界に入れるのが怖かったからだ。 部屋の中で作業していた忍、櫻にとって葵が俯いてくれていたのはありがたかった。滅多なことでは動揺しない彼らが、先ほどの奈央と同じように葵は来ないと思いきっていたからあからさまに驚いてしまったのだ。 だがそこはさすがに学園のトップ。 「葵、遅いぞ。遅刻したのだから全員分のコーヒー淹れてこい」 忍は表情をすぐにクールなものへと戻して、葵に指示を出した。いつも通りの遅刻の罰を与えられて、葵もやっとホッとした顔になり頷いたのだった。 そのあとの会議は多少ぎこちない空気が流れたが、忍と奈央の機転のおかげで無事に終えることができた。 しかし櫻は一度も葵を見てはくれなかった。勇気を出して視線を投げかけてみても、こちらを向いてもくれない。そんなことは今までなかったこと。いつだって意地悪そうに、けれど優しく笑いかけてくれたというのに……。 ――やっぱり嫌われちゃったんだ。 葵は泣きそうになるのを必死でこらえて生徒会室を後にした。 奈央は励ましてくれたが、とてもじゃないが話しかけられる雰囲気ではなかった。好きか嫌いかを本人から聞き出せるわけがない。葵はもう答えを確信していた。

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