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act.1誘惑クローバー<72>
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櫻と葵の関係が元通りになって初めての生徒会の会議。生徒会の空気も日常に戻るものだと安堵していた奈央は、会議が進むと共に葵の表情が曇っていくことに気がついた。
「歓迎会の進行表は大体こんなものでいいかな?って言っても、去年とほぼ変更ないけど」
「仕方ないだろう。この中で去年運営に携わっていたのは奈央だけなんだから。どうだ、奈央、修正したほうがいいところはあるか?」
「……えっ?あ、あぁ」
葵に声をかけようとした矢先、不意に自分の名前が呼ばれて慌てて奈央は視線を手元の書類に戻した。
資料には来週に開催を控えた新入生歓迎会のための進行表の草案が書かれている。春休みから打ち合わせた内容を書記の葵がまとめて打ち込んだものだ。今日の会議で最終的なチェックを行い、”しおり”として高等部の全生徒に配布する準備を進めなくてはならない。
「部活動の紹介の流れはこれでいいと思う。ただ、こうしてまとめて見ると、転換の時間がもう少し余裕があってもいいかも」
奈央が去年の記憶を元に修正点を述べると、葵がすぐに手元の資料に赤ペンで修正を入れ始めた。
生徒会は基本的に高等部の二年・三年を中心に構成され、そのほとんどが連続で任期を全うする。
だが、生徒会長と副会長である忍と櫻は、昨年度は一切生徒会に携わっていない一般生徒だった。葵は前年度生徒会長の計らいにより特例で生徒会に招き入れられたが、それも歓迎会が終わってからの話だ。
去年も生徒会に籍だけは置いていた幸樹は、まともにイベント事の運営に関わってこなかったし、今日の会議にすら出席していないのだから戦力外だ。
必然的に、去年の歓迎会の舞台裏を把握している奈央がこの会議では中心となっていた。
「あとは…去年よりも生徒会の人数が圧倒的に少ないから。そこが心配かな。ただでさえ、冬耶 さんと遥 さんが一人で三人分ぐらい動ける人だから」
「俺たちが力不足だと言いたいのか?」
「そういうことじゃないって!ただ、あの人達が何でもやっちゃうから、正直僕自身がまともに動いた記憶がなくて。……ね?葵くん」
前年度生徒会長に対抗心を燃やしている忍が不機嫌そうな色の声を出したから、奈央は慌てて弁明しながら、葵に同意を求めた。だが、話を振られた葵は、一瞬体をびくつかせると先程奈央が気にした時以上に暗い表情になってしまった。
「どうしたの、葵ちゃん。泣きそう」
葵の隣を陣取っていた櫻も異変に気が付き、そっと頬に手を伸ばした。前までの櫻なら、葵が目に涙を浮かべるのを見つけたら喜々としていじめ倒していたのに、あの一件から態度が分かりやすく軟化した。
「あ、ごめんなさい…なんでもなくて。ただ、去年のこと、思い出してたらなんだか…」
櫻に頬を撫でられて我に返った葵はゆるく首を振りながら否定をしてみせたが、その語尾がどんどんと弱くなり、結局はぎゅっと唇を噛み締めて涙を堪えるような仕草をし始めた。
「歓迎会で嫌なことでもあったのか?」
「嫌なことなんて、なかったです」
ではなぜ、と忍が質問を重ねようとした時、櫻が茶化すように口を挟んだ。
「もしかして葵ちゃん、あの二人のこと思い出して寂しくなっちゃったの?」
「そんなことっ……」
「…え、ほんとだった?ごめん葵ちゃん」
否定したにも関わらず葵がすぐさま目から涙を溢れさせたから、櫻は図星をついてしまったことに気が付き慌てて謝罪を口にしたがもう遅かった。
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