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act.1誘惑クローバー<74>
* * * * * *
「歓迎会って要は部活の勧誘会でしょ?」
「大体皆中等部からの持ち上がりで一緒に練習してるんだから、なんか意味あるんですか?」
口々に愚痴をこぼす双子の手には、その日の朝礼で配られたばかりの”新入生歓迎会のしおり”。だるそうに眺めつつも、葵が所属する生徒会からの発行物だと分かっているから、扱う手つきは丁寧だ。
「確かに勧誘ってよりも、部活動の成果発表みたいな意味が強いかも。でも高等部にしかない部活もあるんだよ。ほら、ここに書いてあるよ」
「あ、ホントだ。……登山部?山登るだけの部活ですか?」
「軽音部も高等部にしかないんだ」
説明を素直に聞いて、指し示された部分を見て興味深そうな双子の反応に、葵は嬉しそうに笑った。
いつのまにか昼食時に1年の双子、聖と爽が混ざることは恒例となっている。抵抗を示していた都古も諦めたのか、争う時間がもったいないと感じたのか、大人しく葵の隣で箸を進めていた。
だが、肝心の葵の前に置かれたクリームパスタはすっかり冷めているのにほとんど量が減っていない。
喋り相手になっている聖と爽は葵とは違い、もう自分たちの分の昼食は完食しきっている。というよりも、このテーブルについている者は皆、葵以外、ほとんど食事を終えていた。
「葵、喋ってないでとっとと食えよ」
見かねた京介が叱ったおかげで、葵は再びフォークを手にして皿に向かい始めるが、すぐに手が止まってしまう。
「おなか、いっぱい?」
「七が食べてあげようか?まだ食べれるよ」
「それは食べ過ぎ。……だけど、本当に手伝ったほうが良ければ協力するよ」
自分の食事の手を止めて葵の顔を心配そうに覗き込む都古に、葵を気遣うもう一組の双子、七瀬と綾瀬。葵がそんな言葉に甘えそうになって戸惑っていることを見透かした京介が、向かいから手を伸ばして葵のフォークを奪った。
「あんま甘やかすなって。具合悪いわけじゃねぇだろ?朝飯もロクに食ってないんだからせめて半分は食え。ほら」
双子と楽しげに会話をしていることからも、体調のせいで食べられないわけでないと判断した京介は、スパルタ方式に葵の口元に一口分のパスタを運んでみせる。
口調は荒っぽいが慣れた手つきで葵に食事を勧める姿は、幼馴染の関係を通り越して母親代わりのようにさえ見える。
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