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act.1誘惑クローバー<76>
「「あれ?羽田先輩たちは俺たちの味方してくれるんですか?」」
意外にも葵の友として認めてくれているのかと聖と爽が嬉しそうに反応すれば、期待に反して綾瀬から冷たい言葉が返ってきた。
「俺たちが心配しているのは藤沢のことだけだ。不必要に煽って烏山の行動を悪化させるような真似はしないでくれ」
「「……別に、そんなつもりじゃ」」
七瀬や葵に対する時とは全く異なり、冷たい光を宿す綾瀬のブラウンの瞳に射抜かれて、聖と爽は威勢を削がれてシュンとうなだれて見せた。
入学早々出会った葵のことを調べる際、その周りのこともしっかりとリサーチした。七瀬とのバカップルぶりを間近で見ているからつい忘れがちだが、綾瀬は他のことにはほとんど興味を示さず、”氷”と評されるほど冷たいと聞いていた。
高等部に編入するまで、友達らしい存在が全く居なかった二人にとって、一つ年上とはいえ、葵を通じて知り合った先輩たちと会話を弾ませながら過ごすランチの時間が楽しくて仕方なかったのだが、どうやらそれは自分たちだけだったらしい。
葵の手前、あからさまな邪魔者扱いをしてくるのは都古ぐらいだが、他も歓迎、はしていないのだろう。その証拠に、突き放すような綾瀬の言葉を、七瀬も京介もフォローひとつしてくれない。
そのまま気まずくなってしまった空気を払拭するかのように、昼休みの終了間際を伝える予鈴のチャイムが鳴り響いた。
まだ仏頂面を続ける綾瀬を引っ張って七瀬が席を離れてしまい、テーブルには京介と聖、爽だけが残る。
「西名先輩は行かないんですか?教室」
「……葵の、残ってっから」
さっきの綾瀬の一言ですっかり萎んだ爽よりは少し図太い聖が臆すること無く話しかけると、京介は何でもないことのようにテーブルの上に残された食べかけのパスタの皿を示す。
「このまま残すとあいつ、気にするから」
昔から少食だった葵のフォローをし続けてきた京介。本人が居ないのだからそのまま残してしまってもバレないものだが、生真面目に葵との約束を守ってやるつもりらしい。
そういう積み重ねが二人の信頼関係を築いているのだと、双子にとってはまた辛い現実を痛感させられた。
京介は、どうせ授業にも出ないし、と見た目通りの不良らしい発言を続けたものの、双子の気持ちはさっぱり晴れないまま。
でも伊達に、編入後すぐに葵の唯一の後輩というポジションを確立させたわけではない。食堂に京介を残して一年の教室へと戻る道すがら、双子は早速来る歓迎会でのより葵と親密になるための作戦を立て始めたのだった。
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