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act.2追憶プレリュード<2>
「幸ちゃんなら多分バスには乗っていかないだろうから。それに電車の時間、そろそろ危ないんじゃなかった?」
幸樹はきっと来ないだろうが、それを言ったら葵が残念がるのが目に見えていて、奈央は葵の気を逸らせるようにロータリーの先にある時計台を示した。
「あ、ホントだ……じゃあ」
「うん、また向こうでね」
予定していた出発時間を過ぎてしまっていることに気がついた葵は、少し名残惜しそうな素振りを見せたけれど、奈央の見送りを受けて大人しくその場を離れることにした。
都古をくっつけたままロータリーから校門にかけて続く桜並木を進むと、そこはもうすっかり花が舞い散って代わりに鮮やかな新緑が芽吹き始めている。
その緑の中には不似合いな、人工的なオレンジ頭が見え出すと、向こうもこちらの存在に気がついたらしい。
「おせーよ」
ずっと葵を待っていた京介は、吹かしていたタバコを地面に落として踏みにじる。その仕草は気だるげだが、葵に向ける視線は言葉や態度と裏腹に優しい。
「また、タバコ吸ってたの?京ちゃん」
「お前が早く来てたら吸わなかった」
「……なに、それ」
京介の足元に隠された吸い殻に気がついた葵が苦言を呈せば、まるで葵が悪いかのような返事が戻ってくる。
「ほら、行くぞ」
言い返そうとした葵に、京介がネイビーのキャップをかぶせてきた。
極端に色が白く、日光に弱い葵を気遣っての日除けという意味もあるが、もう一つこのキャップには大事な役割がある。
普段学園内ではもう何事もなく過ごせるようになったが、葵の髪や瞳の色、肌の白さは外では非常に目立つ。幼い頃から、周囲に指を差されることの多かった葵は未だに自分の姿を晒すのは苦手だった。
だから外に出るときには容姿を隠すためにこうして帽子を被るのが日常となっていた。
乱暴に被された帽子によって乱れた髪を直してやるのは都古。”かわいい”なんておまけ付きで。
そのままキスになだれ込もうとされてしまうから、葵は必死にそれを押し留め、自分と葵の二人分のボストンバックを抱え、校門の外へと歩きだしてしまった京介の後を追った。
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