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act.2追憶プレリュード<4>
「部活も入ってねぇし、新入生と仲良くする気がない奴らには何もすることないイベントだよな」
「……そういうこと言わないの、京ちゃん」
「アオとしか、仲良く、しない」
「なんで?皆といたら楽しいよ?」
イベントに張り切る葵と違って、京介も都古も全く乗り気ではない様子。葵は少し寂しそうにしてみせるが、二人が大人しく行事に参加する理由はただ一つ。葵が危険な目に遭わないよう守る、ただそれだけだ。
安全なはずの生徒会内でもトラブルが起きたばかりだ。保護者代わりの幼馴染京介も、そして番犬ならぬ番猫の都古も、この二泊三日の歓迎会中に何か起こるのではないかと気が気ではない。
駅についた三人は、目的の駅までの切符を購入すると順番に改札を抜けていった。が、最後に並んだ葵は改札を抜ける前に、視界の端に見慣れた金髪頭を見つけ、そちらに駆け出してしまう。
「おい、どこ行くんだよ」
「アオ!?」
先に改札に入ってしまった二人はすぐに葵を追いかけることが出来ない。だが、京介はなぜ葵が方向転換したかの理由をすぐに見つけて、今にも改札を飛び越えそうな都古を押し留めた。
「上野先輩!!」
「……うぉっ、藤沢ちゃん。どったのこんなとこで」
「先輩こそ、何してるんですか?」
駅前のベンチでヘッドホンをしながら携帯をいじっていた幸樹は、目の前に現れた存在に気がつくと、心底驚いたように顔を上げた。
「今日歓迎会ちゃうの?バスで行かんかったん?」
「京ちゃん達と電車で行くんです」
「あぁ、失敗したわー見つからんと思ったのに」
完全にサボる気でいた幸樹だったが、葵に直接咎められると弱い。だから見つからないように駅前まで抜け出していたというのに。それが裏目に出たと知って幸樹はブリーチしすぎて傷んだ金髪頭をガシガシとかいて苦笑した。
「上野先輩も一緒に電車で行きますか?それともお迎え来るんですか?」
「……行くってのは疑わへんわけね」
どういう手段であれ、幸樹がサボろうとしていたなど、葵は思ってもみないらしい。
どうしようかとしばらく思案した幸樹だが、葵を目の前にして”行くつもりはない”なんて言い切れるわけがない。
「もしちゃんと歓迎会でたら、デートしてくれる?藤沢ちゃん」
「デート、ですか?」
「そう、歓迎会中の空き時間に。お兄さんと二人、秘密であそぼ?」
傍から見れば明らかに妖しいお誘いだが、葵相手には真意は通じないらしい。嬉しそうに無邪気に頷かれてしまっては、行かない理由はもう見つからない。幸樹は観念したように息をつくと、ベンチから重い腰を上げた。
「付いてったら藤沢ちゃんの猫ちゃんに怒られそうやけど、大丈夫?」
「みゃーちゃんに?どうしてですか?」
改札の向こうで葵の猫がこれ以上ないくらいの嫌悪感を露わにして幸樹を睨みつけて来ているから葵に一応確認をとってみたが、本人は全く気がついてないらしい。
都古に嫌われているのはただ葵に近づく人間だから、というだけでなく、あの事件の日にからかってキスをさせてしまったから、という要素が強いはず。
だが、まさかそんな理由を葵に告げられるはずもなく、幸樹は覚悟を決め、葵に手を引かれるままに改札へと足を向けた。
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