84 / 1627

act.2追憶プレリュード<5>

* * * * * * 今日一日で何着の服を着替えただろうか。 朝からスタジオに篭りっきりの双子は慣れた様子でカメラの前でポーズを決めていくが、着替える最中に見せる表情には少し疲れが滲んでいた。 顔も身体つきも全く同じ双子だが、自分たちのアイデンティティを保つために髪型には少し違いがある。 聖は右に、爽は左に白メッシュが入っている。だからそれさえ覚えてしまえば二人を見分けることは簡単なのだけれど。 二人が身にまとっている服のブランドデザイナーであり、母親でもある絹川リエは”シンメトリー”を大切にしている。勝手にメッシュを入れたことを怒って、撮影前に黒く染め直されてしまった。 だから今はすっかり見分けがつかない状態だ。 「結構押してるね。向こう着くの夜になるかな?」 「どうだろ。夕方には着いてたいけど」 スタジオ内に掛けられた壁時計を見上げた聖に続いて、爽も時間を確認する。 本当なら二人も朝から歓迎会に向かうはずだったが、次のシーズンのコレクションに加えたいイメージが出来た、とリエから緊急招集されてしまい、やむを得ず途中参加となっていた。 「うーん、やっぱりこの形は写真映えしないわね。ショーなら動きを視覚的に表現出来るからいいんだけど」 撮影したばかりの写真のデータをパソコンでチェックしている母を見ながら、二人はまだまだこの撮影が終わらない予感がして、大きくため息をついた。 「ねぇ、今日学校行事があるって言ってるよね?早く終わらせてよ」 「何?行事って。今までそんなの興味なかったじゃない」 たまりかねて声を掛けた聖だったが、リエは振り返りもせずに淡々と言葉を返してくる。 確かに中学までは学校が大嫌いだった双子は、隙あらば学校をサボることばかり考えていた。 撮影自体も好き好んで参加してきたわけではないが、そのおかげで学校が休めるとなれば喜んでいたのをリエはよく知っている。だから双子の言葉を本気にするわけがなかった。

ともだちにシェアしよう!