88 / 1627
act.2追憶プレリュード<9>
* * * * * *
「「ついたー」」
タクシーのトランクからキャリーバックを下ろした双子は、ようやく到着した目的地に思わず声を上げた。
さすがお坊ちゃま達が集う学園の施設だけあって、今回のように学校の行事や部活動の合宿で使われるためだけの場所でも、その造りは大層豪奢だ。
今まで公立の学校に通っていた双子からすれば、なぜたかが施設にここまでお金をかけるのか、意味が分からない。
そもそも宿泊を伴う行事だからといって、全寮制なのだから学園内で十分行える。場所を替える理由すら双子には理解しがたいものだ。
「とりあえずあそこに入ればいいのかな?」
「でも俺らの部屋どこか分からないよ」
「着いたら葵先輩が案内してくれるって言ってたけど……」
門から向かって正面の建物がメインの宿泊施設だと予想して歩を進めていく二人だが、途中参加に対する不安がないと言えば嘘になる。
そんな不安を、事前に運営元である生徒会役員の葵にこっそり相談したら案内を買って出てくれたのだが、肝心の葵に到着を知らせる術がないことを失念していた。
「今時携帯持ってないって不便過ぎる。小学生だって持ってるのに」
爽が愚痴をこぼすのも無理はない。爽だけじゃなく、葵の周囲にいる人間は皆同じことを思っているはずだ。
でも葵になぜ携帯を持たないのか聞いた時、”お金がかかるから”なんてお坊ちゃま校の生徒には似つかわしくない台詞が返ってきた。
「今度買ってあげる?誕生日プレゼントに、とか」
「それいいね。あ、でも先輩の誕生日まだ聞いてなかった」
「じゃあまずは誕生日聞く事からだね」
双子の中で葵に携帯をプレゼントすることは既に決定事項となったらしい。自分たちと同じ機種にしてお揃いにするところまですっかり妄想が膨らみ始めている。
だが、その妄想は今まさに話題にしていた人物が視界へ現れたことで終わりを告げた。
「「……葵先輩?」」
施設の正面玄関であるチョコレート色の扉の前にちょこんとしゃがんでいる小さな影。俯いているから顔は確認できないが、唯一無二の髪色ですぐに分かる。
白に近い金髪は夕焼けの日差しを浴びて、今は茜色に染まっていた。
歩調を速めながらその影に近づいて声をかけると、顔を上げた彼はやはり二人の予想通り葵だった。
ともだちにシェアしよう!