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act.2追憶プレリュード<10>

「聖くん、爽くん!お疲れ様!」 二人に気がついた葵はすぐさま立ち上がって満面の笑みを浮かべてくれる。 「もしかして先輩、待っててくれたんですか?」 「だって、案内するって約束したでしょ?」 「すみません、いっぱい待たせちゃいましたね」 思わぬ出迎えに頬が緩むのを隠しきれないが、葵に伝えていた予定時刻よりも大幅に遅刻してしまっている。まさか外で待ってくれているとは思わなかった二人は、母親に怒られたとしても時刻通りに抜け出せばよかったと後悔した。 「大丈夫。明日の準備が残ってたから、ずっとここに居たわけじゃないよ」 葵は二人を安堵させるようにそう言ってみせたが、葵がつい先程までしゃがんでいた場所には無数の花冠が転がっていた。入学式で出会ったときのように葵が手持ち無沙汰にそれを作っていたに違いない。 「二人共お仕事終わって疲れてるでしょ。荷物、持とうか?」 おまけに明らかに双子より小柄で華奢なくせに、双子が手にするキャリーバックを預かろうとさえしてくる。 普段周りから面倒を見られる側の葵にとって、双子は可愛い後輩。先輩ぶりたいのが随所ににじみ出ていて、尚更庇護欲を掻き立ててしまうのを葵はきっと気が付いていないのだろう。 「大丈夫ですって!全然疲れてないですし!」 「それより、部屋、どこなんですか?」 葵に荷物を持たせる気など毛頭ない二人は、葵の注意を別のものに向ける作戦に出た。 その作戦は無事成功し、若干不服そうな顔をしてみせたものの、葵は案内をするために先頭に立って玄関の扉を開けてくれる。 「二人の部屋はこの中央棟の五階だよ。同室の人は今、明日の準備で外に出てると思うから…」 「「ちょ、ちょっと待って、先輩」」 「ん?何?」 「「同室の人ってどういうこと!?」」 当たり前のように飛び出た単語に引っかかった双子は思わずキャリーバックを手放して、前を歩く葵の肩を捕らえた。 だが、捕まった葵はなぜ今更そんなことを聞かれるのかさっぱり分からない。 「歓迎会は毎年恒例だよ?一年から三年までが一人ずつ、三人部屋になるの」 「「……ってことは俺と爽も別々なの?」」 「そう、だけど…」 編入生でルールを知らなかったとしても、行事の流れや部屋割りは担任から当然通達が行っているはずだ。まさか知らないわけはない、と葵は思ったのだが、どうやらそのまさか、らしい。 明らかに落胆した様子の双子に葵はなんと声をかけたらよいかわからなかったが、とりあえず慰めの意味も込めて瓜二つの二人の頭を順番に撫でてやる。

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