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act.2追憶プレリュード<13>

意識せずに見分けられていると知った双子は、一度互いの視線を絡ませた。そして、寸分の狂いもなくニコリと口角を上げる。それは良い”イタズラ”が思いついた合図だ。 「ねぇ葵先輩、ゲームしませんか?」 「ゲーム?いいよ、何するの?」 「じゃあまずは部屋、入りましょ」 去ろうとしたというのに、離れがたかったのは葵も同じだったらしい。双子からの提案に、葵は素直に頷き、促されるままに、より近かった爽のほうの部屋と足を踏み入れた。 部屋の中は寮よりも簡素な造りになっていた。 寮は二年生までは基本二人部屋だが、プライベートな空間はきっちりと線引されている。しかしここは単なる宿泊施設だからか、三人分のベッドの他には簡素なテーブルやソファセットがあるだけだ。 先に荷物だけ置いていったらしき同室者二人は、それぞれ端っこのベッドを陣取ってしまっているから、爽は必然的に真ん中のベッドを選択するしかない。 でもそのベッドすら、いち早く葵に取られる。まるで入学式の日の出会いのようにベッドのマットレスに飛び込んでうつ伏せにごろんと寝転んでしまう。 「ねぇ、ゲームってなに?トランプ?トランプならババ抜きと神経衰弱と七並べが出来るよ」 浮いた足をパタパタとさせる葵の中では、どうやらすっかりトランプをやることになっているらしいが、二人が思いついたことは全く別物だ。 「トランプはまた今度やるとして…」 「目を瞑ってても先輩が俺たちのこと当てられるかってゲームしましょう」 「どう?面白そうでしょ?」 部屋自体は簡素なつくりだが、それぞれのベッドはセミダブルほどの大きさ。小さな葵の両隣に細身の双子が滑り込むことなどたやすくできる。 二人は両サイドから葵の顔を覗き込みながらそんな悪魔の誘いを試みた。 「えぇー…見えないのに当てるの?できるかなぁ?」 「「まぁとりあえずやってみましょうよ」」 少し不安そうな葵に比べて双子は至極ご機嫌だ。 聖がベッドに沈んでいたままではゲームが行えないと言って葵の身体を起こさせている隙に、爽が自分のキャリーバックから普段制服とともに着用している緑色のネクタイを取り出す。 そのネクタイの使いみちはただ一つ。 「さ、先輩、目瞑って」 「……ねぇ待って、それで目、塞ぐの?」 「だって先輩がこっそり見ちゃうかもしれないじゃないですか」 「そんなことしないよ」 「でも一応、ね?大丈夫、ゆるくしておきますから」 爽がネクタイを構えて近づいてきたことで、葵もようやく危険を察知したらしい。作戦失敗かと双子に緊張感が走るが、聖の言葉に簡単に言いくるめられて、大人しく目を瞑って受け入れてくれた。

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