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act.2追憶プレリュード<15>
暇になった爽が背後から回した手でそっと葵の腹や太ももを洋服越しに撫でてくるのも堪らない。自然と込み上がってくる涙が、目元のネクタイにじわりと染み込む感触がして、葵は思わず声を出した。
「せ、くん…だめ」
「……ん?あれ、先輩、噛んじゃった?」
聖が一旦唇を話した理由は葵からの静止が入ったからではない。逃げ惑う葵の舌を捕まえた時にほのかに鉄の味感じたからだ。
でも葵が嫌がるあまりに唇を噛んだのかと思いきや、葵の唇はキスを始めた時と変わらずぷっくりと柔らかな曲線を描いているだけ。
自分の気のせいかと一人納得した聖がもう一度葵と唇を重ねようと身をかがめると、今度は片割れが聖を制止した。
「ちょっと、聖の順番長すぎ。代わってよ」
「えーもう?先輩、今ので覚えられた?」
「……ン、わかんない」
「ほら、まだ覚えられないって。じゃあもうちょっとしようね?」
「ずるい!」
爽は言葉と共に、当たり前のようにまた葵にキスを仕掛ける相棒の頭を叩くが、大して意味をなさないようだ。
そっちがそのつもりなら、と爽は今まで大人しく撫でるだけに留めておいたイタズラをより本格的なものに変化させることに決めた。
葵の形の良い鎖骨を惜しみなく晒すVネックのTシャツと、その上に羽織ったグレーの柔らかなカーディガン。葵がどの程度周りから手を出されているかは分からないが、せめて上半身にまとったこれらは突破したいところ。
葵が聖との口付けに翻弄されている隙に、爽はそっとTシャツの裾から手を滑り込ませてみた。普段は布に隠れている腹部は、爽の想像以上に薄かったが、肌がなめらかなせいか、不思議と柔らかささえ感じる。
葵の肌の感触を楽しんでいるうちに機嫌が治ってきた爽は、自分と同じ顔が葵とキスしているのを客観的に観察してみることにした。
聖が角度を変えて桃色の唇を貪るたびに、葵の目元を覆う爽のネクタイの一部が濃く変色していく。目元から溢れた涙が濡らしているのだろう。
それに最初は聖の肩を押し返すように突っ張っていた腕は、今はすがるように力なくシャツを握っているだけ。
聖から与えられる刺激に対し明らかに快感を得始めている葵。爽はその様子を見るだけで、まるで疑似体験しているような錯覚を覚える。
でもいくら自分と同じ顔が葵とキスしているからといって、やはり自分がするのとは比べ物にならない。
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