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act.2追憶プレリュード<16>
「なぁ、もういい加減代わって。俺限界なんだけど」
「しょうがないなぁ。じゃあ先輩、次は爽のこと覚えてくださいね」
切羽詰まった爽の声を受けて、さすがに聖も延長を諦めてくれた
「まッ、待って、も、おわり」
「それじゃ爽が可哀想ですよ。で、ちゃんと終わったらもう一回ゲームしましょう?」
「そんな…」
深く長いキスから解放され、必死で呼吸を整えている葵に承諾も得ず、次のゲームまで約束させる聖は、爽よりも更に我が強い。
とはいえ、ようやく順番が回ってきた爽だってこれ以上お預けを食らうつもりは微塵もなかった。
「じゃあ葵先輩、今度は聖に寄りかかって」
「おいで、先輩」
葵は双子の真ん中でくたりと力が抜けてしまっている状態。それを良いことに、二人の手によって簡単に身体の向きを変えられてしまう。
相変わらず目隠しはされたままだから、不安定な身体は完全にされるがままである。
双子は普段葵がスキンシップを取ることの多い京介や都古よりは細身だが、葵に比べれば随分と男らしい。身動きを取るたびに二人からふんわりと漂う香水の香りも大人っぽくてドキリとさせられる。
可愛い後輩として接していたのに、まるで子供のように扱われて、葵は悔しいような恥ずかしいような。そんな気持ちでぐちゃぐちゃにかき乱されていた。
「葵先輩、大好き」
そんな言葉と共に、頬を包んだ爽の指先が、葵の耳をくすぐってくるし、香りもどんどん強くなってくる。
───ちゅう、されちゃう
葵が身構えた時だった。
「……藤沢くん、それ合意してる?」
「「「ッ!!!」」」
突然の第三者の声に驚いたのは葵だけではない。葵に夢中になっていて双子も侵入されていることに気が付かなかった。
入り口を振り返ると、双子に対して軽蔑したような目をした男子生徒が立っていた。ネクタイの色から察するに二年生。スケッチブックを抱えているし、部屋に難なく入れたことを考えれば、爽の同室者であることはすぐに予想がついた。
葵に目隠しをして、服を胸元までたくし上げているのだから、この行為への言い訳は無意味だろう。ならば、否定すべきはただ一つ。
「「合意の上なのでお構いなく」」
実質”襲っている”ことには間違いないのだが、一応葵の許可は取っている。本人が理解しているかはさておき、だ。
「それなら良いけど。もうすぐ食事の時間だから準備したほうがいいと思うよ」
止めたくせにそれ以上の興味はないらしい。彼は三人がもつれているベッドの脇を通り過ぎて自分の荷物をあさりだしてしまう。
タイムリミットが訪れ、第三者までいるこの状態ではさすがの双子もこれ以上の強行は出来なかった。
「……俺、全然キスできなかったんだけど」
「まぁまぁ、次は爽からしていいから」
ネクタイを外してやった途端、顔を真っ赤にして脱兎のごとく逃げ出してしまった葵の背中を見送りながら、爽が恨めしそうに相棒を小突いたが、機嫌の良い聖には全く響かないようだ。
「あぁー可愛かったなぁ」
爽の気持ちとは裏腹に、聖は葵とのキスを思い出して惚ける始末。
そんな聖に対し、今までに聖に対して感じたことのない黒い渦が胸に広がっていくのを感じて爽はギッと唇を噛んだ。
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