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act.2追憶プレリュード<17>

* * * * * * 隙を見て聖と爽の腕を抜け出した葵は、火照った頬を見咎められないよう足早に元来た道を戻っていく。 双子は出会いの時点から既にスキンシップは過剰だったが、ここまで深く触れられたのは初めてだ。比べることが出来るようにちゃんと覚えて、と頼まれたものの、頭がぼんやりとしてそんな余裕など全くなかった。 “ゲーム”がちゃんと出来なかったことが気がかりではあるが、邪魔が入ってくれたことに感謝するのは否めない。 「藤沢……!」 五階からエレベーターで一階に降りた葵は、一度生徒会のメンバーが集う別館に足を向けようとしたが、その途中の渡り廊下で不意に名前を呼ばれ、足を止めた。 葵を呼び止めたのは、ジャージ姿の背の高い生徒だった。名前までは把握出来ていなかったが、バスケ部の試合で何度か見かけたことがある。確か一つ上の三年生だったはずだ。 「ここで待ってたら藤沢、通るかと思って…。良かった、一人で」 「何か、御用ですか?あ、明日の試合のことで…?」 彼に話しかけられる理由がそれ以外に思い当たらなかったのだが、苦笑いとともに首を横に振られてしまう。 「俺のこと、覚えてない?去年も歓迎会で声かけて、で、魔王に締められたんだけど」 この学園で“魔王”と呼ばれる人物は一人しかいない。卒業した前年度生徒会長のことだ。 そこで葵は彼の言う去年の出来事を思い出した。確かに去年の歓迎会で彼に声をかけられ、そしてそこに”魔王”が現れて彼をどこかに連れて行ってしまった。 一体彼が葵に何の用があって、その後どうなったのか、さっぱり分からないままだったから記憶にもうっすらとしか残っていなかったのだ。 「魔王も卒業したことだし。もう一回チャンスほしくて……」 そう言って彼が差し出してきたのは白い封筒だった。その封筒を見て、葵はしばらくの間忘れかけていた存在を思い出す。カーディガンのポケットに忍ばせている今朝寮で受け取った写真。 もしや彼がその写真の送り主なのか、と葵を身構えさせたが、彼の表情には葵への悪意は感じられない。 「直接話すのって苦手だから、良かったらこれ読んでほしい。去年はかなり性急すぎたって反省してるから」 葵の手が手紙を受け取るのを迷うように震えているのに気が付いて、彼はそんな風に言葉を足す。 だが彼の言う”性急すぎたこと”にも心当たりはない。噛み合わない記憶になんと言えば良いのかわからず、ただジッと彼を見上げてしまう。

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