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act.2追憶プレリュード<18>

「とにかく、受け取るだけ受け取って。中に連絡先も書いてあるから」 フリーズする葵に痺れを切らしたのか、彼はそう言って押し付けるように葵に手紙を渡し、そして走り去ってしまう。 その背中を見ながら、葵は視線を改めて手元に落としてみた。 彼の口ぶりから、恐らく中身は写真ではないのだろうが、今朝のことが記憶に新しく、開く勇気がなかなか出ない。 かといって真剣な様子の彼のことを無視することも出来ない。あとで落ち着いた状態で開こう、そう決めた葵が封筒を元々忍ばせていたものと重ねるようにポケットに仕舞おうとした時だった。 「葵、何やってんだ」 背後から自分を呼ぶ聞き慣れた低い声。振り返れば、やはり声の主は幼馴染の京介だった。 「お前、それなに?さっきのやつから?」 「あ、待って、開けちゃだめ」 京介は近づくなり、葵の手元から受け取ったばかりの手紙を取り上げると、確認もなしに封を開けてしまう。 もしこれにも過去の写真が入っていたら、京介にも嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そんな思いで必死に京介の手を止めようとするが、体格差のせいでちっともうまくいかない。 一方の京介は、葵が懸命にジャンプして手紙を取り返そうとしてくるのを躱しながら、ざっと内容を流し読みした。 内容は単純なラブレター。葵の容姿に惹かれ、生徒会活動を真面目に頑張る内面にも魅力を感じていることがお世辞にも綺麗とは言えない字で綴られていた。 それだけならまだ可愛いものだが、去年の歓迎会で葵に無理やりキスしかけたことを謝罪する言葉も書かれていたから京介の心中は穏やかではない。 幸い未遂で終わりそれなりの制裁を受けたようではあるが、見逃すことは出来ない。 「お前、去年あいつにどこまでされたの?」 「どこまでって?何もされてないよ?」 本人に問いただせば、丸っきり分からないと言いたげに小首を傾げられてしまう。周りが必死に守ってやっているというのに、この無自覚さだ。京介は呆れにも似た感情で深くため息をつく。 「こうされたんじゃねぇの?」 「ん?」 試しに見上げてくる葵の顎を掴んで上向かせ京介が顔を近づけても、逃げるどころかまっすぐに見返してくるだけ。そんな所も可愛いと思ってしまうが、自分以外にもこの調子だと非常に困る。 それに、いつも桃色をしている葵の唇が熟れたように赤らんでいることに気が付いてしまった。こうなる理由に京介は心当たりがある。

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