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act.2追憶プレリュード<20>

「立てこもってるって…みゃーちゃん大丈夫なの?」 「拗ねてるだけだろ。お前が行きゃ一発で出てくるから。行くぞ」 都古の行動は、自分の主人である葵を呼び寄せるためのボイコット。要求を叶えてやるのは腹立たしいが、自然に葵をこの場から移動させるために使わない手はない。 うまく葵を誘導することに成功した京介は、人影が隠れている場所から葵の姿が見えないよう自分の身体でかばい続けながら元来た本館へと方向転換を行う。 その合間に茂みを見やると、一瞬見えたのはネイビーのスーツ。生徒が着用するわけがない代物だ。 「……一ノ瀬、か」 引率で来ている教師の中で京介が思い浮かぶのは生物担当の教師で、二年の副担任でもある存在。つい最近も都古から、タイミング良く彼が葵の元に現れた話を聞いたし、まず間違いないだろう。 中学時代から何かと葵の周りをうろちょろしているから警戒はしているが、相手が教師なだけに下手に牽制をかけることも出来ない状態が続いていた。 「頼むから、一人でふらふらすんなよ」 京介が心底不安になって漏らした頼みも、葵からしてみれば随分子供扱いされてしまっている風に感じられてしまう。 「大丈夫、ちゃんと一人でがんばれるから」 「そういう話をしてんじゃねぇっつーの」 二年生に進級してからというもの、葵がやたらとそう強調してみせたがることも京介には心配の種だ。 「何かいつもと違うこととか、変なことあったら、真っ先に言えよ」 京介の言葉で葵が真っ先に思い浮かぶのは例の写真入り封筒のことだ。 だが、京介には過去のことで取り乱すたびに、”全て忘れろ”と何度も言い聞かされてきたから、これを受け取って、腕を噛む癖を再発させたなんて知られるのが葵には怖かった。 「だいじょぶ、がんばれる」 京介を安心させるためだけじゃない。 自分にも染み込ませるように呟いた言葉に返ってきたのは、くしゃりと髪を撫でる京介の大きな手だった。

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