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act.2追憶プレリュード<22>
「……アオ、あいつらの、匂い。何…してた?」
抱きしめて頬を寄せた瞬間に香ってきた独特のフレグランス。明らかに葵の匂いではないそれに覚えがある。最近非常に目障りな双子のものだ。
匂いが移るくらいの距離で何をしていたか、なんて聞かなくたって想像がつくが、あえて葵にちゃんと確認をしたい。
特に、聞いた瞬間に葵の頬が朱に染まったのだから見逃しておけなかった。だが更に葵に畳み掛けようとする前に邪魔が入る。
「ちょっと都古くん。早くいこうよ。もうお腹ぺこぺこなんだけど」
「だな。馬鹿猫、行くぞ」
七瀬はただ単に空腹に耐えきれずに遮ってきたのだろうが、葵が他人の香りを身に纏っていると知って京介が落ち着いているのはおかしい。原因を知っているのかと無言で睨みつければ、案の定、余裕のある苦笑いが返ってきた。
歓迎会の基本ルールは同室者と共に行動すること、だ。だから、当然のように都古が動けば同室者の二人も後をついてくる。
それに京介や七瀬、綾瀬の同室者と思しき他学年の生徒もぞろぞろと同行してくるのだから、食堂代わりの大広間への道中で何とも稀有な大所帯と化していた。
本音を言えば、こんな人数で行動するなんて気持ち悪くて仕方ないが、そこに葵が混ざっていれば都古の心象は全く別の物になる。
「アオ、もう仕事、終わり?」
生徒会での仕事以外はなるべく一緒に居てくれると葵は約束してくれた。だから今日はこれからずっと傍に居られるのだと思った都古は期待を込めて尋ねてみたが、返ってきたのは気まずそうな笑顔。
「……ごめんね、まだ仕事残ってるんだ」
「やらなきゃ…だめ?」
真面目なところももちろん葵の好きな所ではあるが、甘えたい都古にとっては恨めしいときもある。だから、困らせるのは覚悟の上で顔を覗き込んでみる。都古には随分甘いご主人様はこうされるのに弱いのだ。
京介がこんな光景を目撃したらすぐに止めに入るだろうが、彼や他の同行者が皆一足先に広間へと姿を消してしまったのを都古はきちんと見届けている。普段馬鹿猫と言われてばかりだが、葵の隙を突くのは大の得意。
でももう少しで葵の決心が揺らぐという時、都古の首根っこをグイッと遠慮なしに引っ張る手が現れた。
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