103 / 1597

act.2追憶プレリュード<24>

「葵、馬鹿猫はこっちに任せて、放っておいていいから。まだ仕事残ってんだろ?」 なかなか広間に現れない葵と都古を心配して廊下へと戻ってきた京介が現状を打破させるべく声をかけてきた。 京介だって葵を生徒会にやることは散々心配していたくせに、こうも簡単に葵を送り出すことが出来るなんて都古はますますむくれたくなる。 だが結局、京介の許しを得た忍が堂々と葵を連れ去ってしまい、残された都古も京介の手で広間へと強制連行されてしまった。 広間では無数の丸テーブルが並び、それを取り囲むように生徒がそれぞれ分かれて夕食を楽しんでいた。寮や校舎の食堂の光景と違うのは、どのテーブルも同室者で固まっているため、学年の違いからか少々ぎこちなさを感じる点だ。 だが、京介に連れられて都古が辿り着いたテーブルには、いつもの顔ぶれである綾瀬と七瀬しかいない。周囲を見渡せば、同室者たちは他のテーブルへと追いやられていた。 聞かなくても七瀬がこの席順を割り振ったのだろうことは都古にも予想がついた。 「都古、お前明日バスケ付き合え」 「…………は?」 席につくなり現れた給仕に適当に注文を告げた都古に、京介が唐突にそう呼びかけてきた。何の冗談かと思い見返せば、京介はいたって真面目な顔をしている。 「なな達も出るから、よろしく」 「で、あと幸樹入れて5人な」 綾瀬といちゃつきながらハンバーグを頬張っている七瀬までも参加するらしい。この場に居ない京介の悪友であり、生徒会役員の幸樹の名前まで出てきた。ますます都古は話の流れが分からなくて困惑する。 明日、運動部の試合が至る所で開催されること、それが部内の試合ではなく部外の生徒と戦う形式であることは葵から説明されたから知識としては知っている。問題は、なぜそれに都古が呼ばれるか、だ。 都古が空手や柔道の心得があることを知っている者は少なくないため、それぞれの部活から試合相手として勧誘されたが全て無視している状態。 それに出ろと言われるなら百歩譲って分かるが、なぜ縁のないバスケ部の試合に出ることになっているのかさっぱり理解できない。 「これ、見てみ。明日そいつ潰すから」 不穏な言葉と共に渡されたのは白い封筒。渋々受け取って中身を確認すれば、それは葵宛で、中身は紛れもなく告白。そして差出人は文章から察するにバスケ部らしい。

ともだちにシェアしよう!