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act.2追憶プレリュード<26>

「一年の双子が葵にくっついてるのも多分葵へのガードが甘くなったって思われる原因かもな。だからこういう奴も湧いて出てくる」 “こういう”といって指し示したのは例のラブレター。 都古が高等部に編入して葵と親しくなった際、周りの一般生徒まで”葵と仲良くなれるかも”なんて期待を持って一斉にアタックし始めたことがある。聖と爽との関係も同様に、周囲を煽る効果を引き起こしてしまっているのだろう。 「それに、やっぱり一ノ瀬が葵のこと付け回してる気がする」 「……一ノ瀬って、生物のか?まだあの人藤沢に?」 「気持ち悪ッ。ななあの人きらーい」 “一ノ瀬”の名前を聞いた瞬間、自分たちの世界に浸っていたカップルも会話に参入してきた。中等部から葵と友人関係を築いてきた二人は、当然一ノ瀬の危険性は察知している。 それまで中等部の教師をしていたのに、葵が高等部に上がるタイミングで一緒に移ってきたことを考えれば、”付け回す”という京介の言葉が大げさではないことに思える。 「一ノ瀬のこと、生徒会には言ってるのか?」 「いや、会長がああいう性格だから、異動とかクビとか極端なことしそうだろ。ああいうタイプは追い込むと更にヤバくなるって兄貴が言ってたから。その辺は慎重にしてる」 対策を練るべきだという綾瀬に対し、京介は前年度生徒会長であり通称”魔王”である兄、西名冬耶の名前を引き合いに出した。 だが、冬耶の名前が出たことで、都古は別の懸念事項を口にした。 「アオ、寂しい、みたい。……ずっと、変」 「寂しいって。兄貴が卒業してってこと?」 「そ。無理、してる」 ここ最近、葵の食欲が極端に落ちていることは京介も把握している。その原因も大体の察しはついていて、都古の意見と相違ない。 「兄貴も遥さんも、葵がこれを乗り越えられるか試したいって言ってるけど。そろそろ見てらんねぇよな」 京介の言う“遥”とは、冬耶とコンビ的存在の前年度副会長、相良遥のこと。冬耶は京介の実家にいるが、遥にいたっては卒業するなりフランスに留学してしまった。 遥が一気に葵との距離を物理的に離したことが、葵の心を弱らせているに違いない。 でも幼い頃から葵を見守ってきた二人は、二人にべったりと依存していた葵を卒業を機にもう一段階成長させるため、心を鬼にしてこの決断を選択したことを京介や都古は理解している。

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