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act.2追憶プレリュード<28>

* * * * * * 広間がある本館と渡り廊下で繋がった別館には生徒会一同の部屋が準備されている。そこは本館よりも更に細部まで豪勢な造りとなっているが、その中でも際立って立派な部屋が生徒会長である忍のものだ。 寝室とは別に設けられた一室に運び込まれた夕食を取り囲むのは生徒会の面々。でもその中には当然のように幸樹の姿がない。 「……電話、出ないですか?上野先輩」 幸樹を呼び出すために電話をかけた奈央が無言で通話を終了させたのを見つけて葵が問いかければ、肯定の頷きが返ってきた。 奈央とともに昨年度から役員だった幸樹は、実質籍だけ置いているようなものでほとんど活動に参加したことがない。 京介とは親しい幸樹と仲良くなれるきっかけがほしい葵にとって、一緒にこの会場に到着して以降ぱったり姿が見られなくなったのは残念で仕方ない。 だが、落ち込む葵をよそに、コース料理の前菜であるカナッペに手を伸ばす櫻の顔は晴れやかだ。 「良かった、上野来なくて。っていうか、そろそろあいつクビにしない?」 「生徒会に属してる意味がないからな。考えておこうか」 櫻は特に幸樹への当たりがきつい。それに答える忍も櫻に負けず劣らず扱いが酷い。 真面目に活動に参加していない幸樹も悪いが、葵はそんな二人の態度こそが幸樹が来づらい環境を作ってしまっているのでは、と思わずにはいられない。 かといって、先輩二人に歯向かうことも出来ず、唯一優しい奈央のほうをちらりと見やってしまう。 「大丈夫、本当にクビになんてしないよ」 「……よかった」 葵の気持ちを汲んだ奈央がそう言って安心させてくれるが、面白くないのは忍と櫻だ。 「ちょっと葵ちゃん。こんなに仕事頑張ってる先輩よりも、サボりまくってる上野の肩持つわけ?」 “こんなに”と言って櫻が見せつけたのは、明日の段取りをまとめた資料。夕食を取りながら、ではあるが、今は立派なミーティングの時間だ。それに参加しない上野に懐いている素振りを見せられると櫻が悔しくなるのも無理はない。 「そうじゃ、ないですけど…上野先輩が居ないと寂しいから」 「ほう、お前は俺が傍に居るというのに、上野のほうが良いのか」 「あ、いえ、そうでもなくて…」 隣に陣取る忍にまで詰め寄られ、葵はなんと説明してよいか答えに窮してしまう。 「会長さんのほうが良いとか、上野先輩が、とかそういうことじゃなくて」 「そもそも上野のほうが”会長”よりも親しい呼び方なのも気に食わない」 無敵のキングも葵相手にはみっともないくらい嫉妬深い。この空間には心を許している櫻と奈央しか居ないこともあって、忍は惜し気もなく妬いてみせる。

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