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act.2追憶プレリュード<29>

「葵くんを困らせないで、忍。明日の持ち場に話を戻そう。幸ちゃんを人員として数えないとするとやっぱり人手足したほうが良さそうだよね、今更だけど」 忍に見つめられて固まってしまった葵を救ったのは奈央。なぜ幸樹を呼び出そうとしたのか、それは明日の人員配置を行いたかったからだ。そこに話を戻して、まだ不服そうな忍と櫻の気を引いた。 「言うことを聞くやつなら用意できる」 「……それって忍の元セフレ達でしょ?ちゃんと働けるの?」 「セフ、レ…。そんな人達呼ぶのやめて」 解決策を提示した忍に対し、櫻と奈央の反応は冷ややかだ。 今でこそ葵一筋な忍だが、中等部時代から学園中の生徒、そして時には教師とまで関係を持っていた忍。身体の関係こそ切れているが、こうして隙きあらば駒のように使おうとする傾向にある。 「じゃあお前らが用意しろ」 「いいよ、僕も下僕いるし」 「下僕って…それもなんか嫌だ」 忍に対して櫻にはその美貌に喜んで跪くような熱烈な支援者たちがいる。忍と違う点は大の潔癖症な櫻は彼らには指一本触れさせていないこと。 だがそれはそれで異常な関係に違いない。奈央はまたしても本音を漏らしてしまう。 「文句言うなら奈央がなんとかしてよ」 「なんとかって。普通に考えたら、去年生徒会だったメンバーに声掛けるのが妥当かなって思ってるけど」 櫻に切り替えされた奈央は、昨年度、自分や幸樹とともに生徒会活動を行なってきた友人達を思い浮かべながら返答する。 が、それを聞いた忍と櫻には最大級の呆れ顔をされてしまう。 「僕達があいつらに恨まれてるの気付いてないの?」 「お前も大概お人好しだな」 順当に行けば自分たちが今年度も続けて生徒会役員になれるはずだった彼らは、急に生徒会選挙に出馬し、役職を奪った忍と櫻のことを快く思っていない。 二人が何度誘われても拒んできた生徒会の役員に急にやる気を出したか、その理由が葵とお近づきになるため、なんて不純な動機だったのも更なる要因だ。 今の生徒会の仕事を手伝えなんて頼んだら反感を呼ぶのは必至だろう。 「お人好しって…でも葵くんも懐いてたし。……って葵くん?」 人懐っこいようで実は対人関係が不得手な葵のことを慮った選択だと奈央が言い訳をしてみせたが、しばらく葵が会話に参入していないことに気が付いた。 見やれば、葵は血の気の失せた顔をしてジッと目の前の皿を見つめている。葵の皿に取り分けられたオードブルは多少手を付けられているが、ぴたりと手が止まってしまっているようだ。

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