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act.2追憶プレリュード<31>
* * * * * *
───また、やっちゃった
忍の部屋を勢いで飛び出してしまった葵は、胸に沸々と湧いてくる自己嫌悪に押しつぶされそうになっていた。
奈央に告げた言い訳通り、足は本館に設置された医務室へと向けているが、これが薬で治るようなものではないことは葵自身がよく自覚している。
冬耶と遥が居なくなったばかりの生徒会で、更に幸樹がクビにさせられるかもしれない。そんな話題がのぼって不安がこみ上げてきて、そしてダメ押しは忍から指摘された”呼び方”のことだ。
出会ったばかりの頃は”北条さん”と名字で呼んでいたが、ある日忍から”もっと違う呼び方をしてほしい”と暗に下の名で呼ぶよう頼まれた。
それがどうしても出来なくて、誤魔化すように役職名で呼ぶようになってしまったのだが、やはり忍には嫌な思いをさせていたようだ。それをはっきりと態度で示されて、思考が停止してしまった。
どうして”忍”と呼べないのか。口に出せないのか。そんな理由をもし忍本人に告げたらきっと嫌われてしまうと葵は思う。
解決方法が見つからないまま辿り着いた医務室代わりの一室。
入らないでそのまま引き返そうかと悩んだが、じわりと重い頭の痛みだけでも取れたら楽になれるかもしれない。そう思い直した葵は頭痛薬を貰うために医務室の扉を開けた。
「……あの、橘 先生?」
医務室とはいっても、生徒が宿泊している部屋の内装とほとんど変わりはない。
ベッドが3つ並び、その横にはソファセットが設置されている。その一つに保険医である橘が腰掛けていた。
肩まで届く黒髪を一つに結び、黒縁の眼鏡を掛けている橘は一見すると野暮ったい外見ではあるが、眼鏡に隠された瞳は鋭い。
「おや藤沢くん、珍しいですね。いらっしゃい」
テーブルの上に乗ったものを並べなおしている様子だった橘は葵の存在に気がつくと、葵を向かいのソファに座るよう手招いてきた。
促されるままに席につくと、てっきり医療機器だと思っていたものがそうではないことに葵は気が付く。
「さっきちょうど先客が帰ったところだから、ゆっくり見ていっていいよ」
そんな台詞とともに見せられたのは、蛍光ピンクの液体が入ったボトルや、コードが付いた丸い卵状のおもちゃのようなもの、それから小さな正方形サイズのビニールに包まれた何か…。
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