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act.2追憶プレリュード<40>*
「んッ、ン…はぁ」
「ああもう、たまらん、かわええ、無理」
宣言したものの、葵の肌を味わううちにどんどんと己の分身が熱を帯び、硬さを増していく。自分の愛撫に素直に反応されればもっともっと鳴かせたくなるのが男の性だ。
柔らかな頬から唇を滑らせ、首筋を甘噛みしながら、ついつい手は自身を解放するためにベルトへと伸びてしまう
だが指先がベルトの金属部分の冷たさに触れて若干我に返った幸樹。
「あかん、落ち着け俺。今何しようとしてた?」
ベルトを外して下着から張り詰めた自身を引っ張り出して向かわせたい先なんて決まっている。そこはまだ誰も暴いていない場所。
こんなシチュエーションで幸樹が簡単に破っていいわけがない。それこそ冗談抜きで京介や奈央に、そして更にはその上の前年度ツートップの魔王と閻魔のコンビに殺されるだけでは済まない。
「ちゅーか…そもそも頭痛かったんよな。すまん、そこ気遣うべきやったな。まだ痛い?」
「んーん、へい、き」
いつもは頑なに敬語を崩さない葵も今はすっかり蕩けた口調になってしまっている。でも返ってきた答えに幸樹は安堵させられた。
「一発ヤッてきててよかった。そうやなかったら、確実に突っ込んでたわ」
今度こそ本当に葵をバスルームに一人残し、ローションや泡でまみれた体にシャワーを浴びさせている間、幸樹は脱衣所でそう零した。
ほんの少し前に熱を放出していたから、すんでの所で理性が返ってきてくれた。こうなっては乱暴に追い返したあの名前も知らない一年生に感謝せざるを得ない。
「ヤバイなほんまに。京介のこと応援するって約束したっちゅーのに」
京介がどれだけ葵を愛して大事にしているか。そしてその思いを相談できる存在が京介には幸樹しか居ないということも、よく分かっていたはずなのに、だ。
普段は憎たらしい口しか利かない一つ年下の生意気な悪友が葵の話をする時だけとてつもなく柔らかな雰囲気を纏う。だからその恋が叶えばいいのにと思ったのは紛れもなく幸樹の本心であった。
でも葵を視界に入れれば入れるだけ、言葉を交わせば交わすだけ。惹きつけられるのはどうしたって避けられない。
それにもう一人の数少ない友人、奈央も葵を他とは比べ物にならない位大切に大切に接している。奈央のほうは京介と違い、親しい後輩を可愛がっているだけのつもりのようで自覚はまだないらしいが、傍から見れば”恋”なのは明らかだ。
「どないしよ」
今までだって葵に堂々とセクハラをしてきたが、その理由は葵が可愛いからというのももちろんだが、京介や奈央が本気で怒ったり、慌てふためいたりするのが楽しかったからだ。
でもいくら葵に誘われたとはいえ、嫌いな行事に大人しく参加してしまったり、こうして冗談では済まない域のセクハラをしかけてみたり。
どう考えても自分の感情が危ない方向に傾いてしまっている。
「いっそ藤沢ちゃんが早く誰かとくっついてくれたら諦めもつくんやけど」
最終的に幸樹がもやもやの矛先を向けたのは、無垢さゆえに周りからの愛情を理解出来ていない葵だった。
「あの子は誰を選ぶのか、ね?」
思い当たるだけの顔を浮かべながら答えの出ない予想を立ててみる。だが、その選択肢の中にちゃっかり自分を入れてしまうあたり、もう幸樹は抜け出せないところにまで来てしまっているようだった。
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