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act.2追憶プレリュード<42>
『言っとくけど、先週末会おうって誘ったの断られたのは俺のほうだぞ』
「え、そうなんですか?」
『そうそう、生徒会の仕事が残ってるからって。全くそのぐらいなっちが代わってやれよ』
チクリと奈央を責め返してくる冬耶だが、告げられた事実に奈央は大いに驚かされる。
葵が頑なに”一人でがんばること”にこだわっていたから、てっきり冬耶が卒業を機に葵を突き放すようなことを言ったのだと思っていた。だから葵が元気を無くすのも無理はない、と。
でもどうやら葵のほうから冬耶を避けているらしい。なぜなら週末に残っていた生徒会の仕事なんて大した量じゃなかったし、後回しにも出来たはずなのだ。
「すみません、勘違いしてたみたいです」
冬耶と会話するのは少々緊張するからと、立ち上がったまま架電していた奈央は、ようやく部屋のソファに腰を下ろしながら素直に謝罪を口にした。
『俺たちと校舎が離れるたびにあーちゃんが落ち込む時期が来るから。今回もそれだと思う』
「そう、だったんですね」
“俺たち”と冬耶が表す相棒は副会長だった遥のこと。冬耶とはまた違った意味で随分と人目を引きつける容姿をしていた彼もまた、葵が西名兄弟以外では最大級に心を開いて懐いている人物だ。
彼らへの葵の思いの強さを感じる話を聞くと、奈央の胸にじわりと切なさが広がっていく。
『でもなっちの前でも吐いちゃったのが気になる。あの子、絶対バレないように隠すはずなんだけどな』
「いえ、目の前というか、食事中に急に葵くんが固まっちゃって、それからバスルームに駆け込んだんです。気になって追いかけてみて気が付いただけで」
『食事中に…?』
訝しがる冬耶に対して奈央が説明の言葉を重ねれば、更に声のトーンが変わった。
『何の話してた?』
「何のって、普通に…」
『良いから一言一句漏らさず教えろ、なっち』
無理難題を吹っかけてくるのは現役の会長だった頃からのこと。奈央は期待に応えるために、懸命にあの直前の会話を思い出して出来るだけ忠実に冬耶に話して聞かせた。
すると、探し求めていた回答を見つけたようで、電話越しから冬耶の溜息が聞こえてきた。
『なっち、事態は結構深刻かもしれないぞ』
「どういうことですか!?」
何の変哲もない生徒会での仲間内の会話にどんな地雷が含まれていたのかなんて奈央にはちっとも思い当たらない。
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