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act.2追憶プレリュード<43>

『今夜、あーちゃんのこと寝かしつけてから確かめてほしいことがある』 「寝かせるって…」 今後の展開を頭の中で描き始めている冬耶と違い、奈央は唐突な命令にただ困惑するばかり。 『あーちゃんの腕、確認して』 「腕、ですか?」 『そう腕。特に手首』 冬耶の意図がますます分からない。だが、そこに重大な何かが秘められているのは真剣な口調で十分に伝わってきていた。 『くれぐれもあーちゃんに気付かれないように』 「それにどういう意味があるんですか…?」 『俺の勘が正しければ、多分鬱血してたり噛み跡残ってるはずだから』 「鬱血?噛み跡?」 不意にもたらされた不穏な単語に動揺を隠せなくなる。だが、奈央の不安を押さえ込むように冬耶は新たな命令を重ねてきた。 『それを確かめて、で、俺に教えて』 「…わかりました。でもその役目は西名くんのほうがいいと思うんですけど」 何か確信を得ている様子の冬耶の指示を聞きたくないわけではないが、奈央は自分よりもずっと適した人物がいるのだから、と持ちかけてみた。 葵の深い部分を覗くにはまだ自分は適していない、と思ってしまうから余計不安なのだ。 でも返ってきたのは思いもよらない言葉。 『もし噛んでたらあーちゃんは絶対京介とは寝ようとしない。バレないように必死なんだ』 「それなら…烏山くんはどうですか?その、彼も色々葵くんのこと理解しているだろうし」 『うん、そうだな。だけどみやくんは俺に報告くれないから。手遅れになったら困る。だからなっちにしか頼めない』 なぜバレないようにするのか、そもそも”噛む”という行為が葵にとって何なのか。聞きたいことは山ほどあるが、これ以上の情報は今はまだ与えられないのだろうことは奈央にも察しがついていた。 『吐いた時は大抵微熱出るからそこもちゃんとケアして寝かせてあげて。もし腕に傷があったらそこも化膿しないように消毒だけしておいてほしい』 「……はい」 『あと、万が一あーちゃんに腕を見たことがバレたら、その時はすぐに京介を呼んで』 「でも西名くんにはバレたくないんじゃないですか?」 『いや、その時はかなりパニックになるだろうから。なだめるために京介呼んで』 奈央の行動一つで葵が乱れてしまうなんて恐ろしすぎる。 いくら冬耶からの命令で、それが葵のためになるとはいえ、奈央はどうしても任務を遂行する自信がなくなってきた。

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