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act.2追憶プレリュード<46>

ぐるりと別館の周りを半分まわって辿り着いたのはちょうど正面入口の真裏。そこには左右対称に刈り込まれたフランス式の庭園が広がっていて、至る所に色とりどりのバラが咲き誇っている。 ぽつぽつと灯ったライトに照らされた洋館とバラ庭園のコントラストは、興味のない爽でも美しいと思わざるをえない。 でも都古の黒目が捉えているのはあくまで建物のみ。 生徒会のメンバーが滞在しているであろう二階の窓からは所々明かりがついているが、一階はすでに誰も滞在していないのか間接照明のほのかな光がカーテンから漏れ出ている程度。 「まさか、侵入する気っすか?」 一階の窓に手を掛けはじめた都古に、根は小心者の爽は思わず焦った声を出してしまう。 でも都古は爽の心配などお構いなしに一階の施錠を確認するとそこからの侵入は諦めたらしい。次なる経路を探すために二階を観察する素振りをみせている。 二階の窓も風に揺られるカーテンが見え隠れしているから開け放たれているのだろうが、そこにいる人物が葵以外なら侵入は不可能だ。 それならば、と更にもう一つ上の階へと視線を移した都古はようやく侵入経路になりうるポイントを見つけた。三階の一室は明かりは灯っていないのだが、換気のために小窓が一つ開けられていたのだ。 「え、登るの?」 履いていた赤い鼻緒の草履をためらいもなく脱ぎ捨てて裸足になった都古はひょいと身軽に一階の窓枠に手をかけ、浴衣の裾が乱れることも気にせずに簡単に窓枠の上へと体を乗らせる。 まるでしなやかな猫のように、今度は二階のバルコニーの縁へと乗り移ってぶら下がっている。 そして軽やかに体を翻してバルコニーの中へと体を滑り込ませてしまった。 「マジかよ…なんなんだよあの人」 浴衣という身動きの取りづらい格好をしておきながら、簡単に二階に到達した都古はバルコニー内で軽く助走を付けて壁を蹴り上げジャンプし、あっという間にあの窓が開いている三階へと到達してしまった。 爽はただ地上に居ながら唖然と見守るしかない。

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