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act.2追憶プレリュード<47>

だが、都古が窓からするりと体を滑り込ませた瞬間、その場に不似合いなビーッという電子音が鳴り始めた。タイミングや音の性質を考えたら、どうやら三階の窓に付けられた防犯のセンサーが反応したらしい。 そして数秒と経たずに別館の正面からこちらへと向かってくる足音が鳴り響き始める。もしかしなくても警備員に違いない。 「ちょ、え、やばくない?先輩?」 どちらかと言えば、三階の窓枠に腰掛け上体を反らして伸びをしている都古よりも、地上にいる爽のほうが先に捕まりかねないヤバイ状態である。 でも爽はそれに気がついた時には遅かった。警備服を身に纏った男性が数人現れるなり、有無を言わさず爽をまず捕まえてきた。 「待って、俺じゃないから、あっち、あっちだから!」 押さえ込むように両腕を掴まれた爽が必死になって警備員に三階の窓辺でくつろぐ猫の存在を知らせるとようやく主犯の存在に気が付いたらしい。 警備員が口々に降りてこいと声を掛けるが都古はどこ吹く風。焦るどころか、自分のせいで捕まっている爽を見下ろして薄い唇を三日月型にして笑ってさえいる。 「なんだ、騒がしい」 騒々しさにとうとう二階から顔を出したのは忍。くつろいでいたようでその手には文庫本が一冊握られていた。 初めは警備員に取り押さえられている爽を軽蔑したような目で見下ろしていた忍だが、皆の視線が自分の上に向けられていると知って振り返った瞬間、さすがに動揺したようだ。 「なっ、カラス、何してる」 普段は余裕を崩さない忍が珍しく焦った様子を見せる。それもそのはずだ。窓辺に座った都古がぷらぷらと素足を伸ばしてくつろいでいるなんて想像もしなかっただろう。 「とにかくお前はここに降りてこい。で、そいつは離してやっていい、うちの生徒だ」 動揺はしたもののすぐに状況を理解した忍は、まずは都古に対し、そして次に爽を捕まえている警備員へと冷静に指示出しを始めた。 警備員たちは忍の命に忠実に従って爽の拘束を取ると、一礼して立ち去っていく。 都古に興味本位で着いていったせいでとんだとばっちりを受けてしまった爽は、捻り上げられて痛みが残る腕をさすりながら、膠着状態のバルコニーを見上げた。 「降りてこい」 「……命令、すんな」 忍から再度三階からバルコニーに降りるよう指示された都古はようやく口を開いたが、明白な挑発。夕食前に葵を忍に取られたことを恨んでいるのは明らかだった。 葵がその場にいないから二人の睨み合いはきついものになっていく。

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