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act.2追憶プレリュード<48>

「ここは生徒会役員及び役員に許可を受けた者だけが出入り出来る。すぐに立ち退かなければ規約違反で本気で停学させるが、どうする?」 普通の生徒ならば高校生らしからぬ迫力の忍を前にして平常心で居られるわけがない。だが、都古はふてぶてしい態度を貫いたまま窓辺からぴくりとも動かなった。 脅しが効かないとなれば、取れる手段は都古が唯一言うことを聞く葵の名前を出すしか無かった。 「なら、好きなだけそこに居ればいい。生憎葵はここにはいないがな」 「……は?アオ、どこ?」 案の定忍が葵の状況を伝えれば、さっきまでの態度を一変させ慌てた様子でバルコニーまで飛び降りてきた。今にも掴みかからんばかりの勢いだ。 「医務室と言っていたが、西名の元へでも行ったんじゃないか?」 忍はあえて都古がライバル視している京介の名前を出して更に不安を煽ってみせる。 すると、効果覿面だったのか、あっという間にバルコニーから地上へと飛び降り、放置していた草履を履くのも忘れ駆け出して行ってしまった。 「どっちか知らんが、お前もそれを持って早く出て行け」 今度は二人のやりとりを黙って見守るしかなかった爽へ、忍が冷たく言い放つ。 まともに言葉をかわしたことはなかったが、彼が入学式から葵にまとわりついている目障りな新入生の双子のうちの一人、ということぐらい把握はしていた。 いつか潰しておこうと思っていたのだから、こうして都古の草履を本人に返すことを命じるなんていう地味な嫌がらせを喜々として行う。 「えー…めんどくさ…着いて来なきゃ良かった、マジで」 どうせ都古の元に持っていった所で”勝手に触んな”と怒られるか、完璧に無視されるかのどちらかだろう。感謝などされるわけがない。 だが、学園トップの存在に命令され、更に相棒の聖がいない状態では歯向かうことさえ出来ない。 爽は渋々地面に転がる草履の鼻緒部分を指に引っ掛けて元来た道を帰ることにした。 一人で行動するとロクなことがない。 昔から聖と離れて動いた時に限って運の悪いことばかり起きている。今回もそうだ。 でも今日聖が爽への気遣いもなしに葵にキスを仕掛けたのはどうにも許せない。 いつだって”お気に入り”は二人で共有してきたけれど、生身の人間である葵を半分に出来ることなんてできなくてこの感情にどう消化すればいいのか分からなかった。 「あーあ、葵先輩も双子だったらいいのに」 そうしたら聖にムカつかなくて済む。爽はやり場のない気持ちをそんな馬鹿みたいな願望を口にすることで解消させようとしたのだった。

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