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act.2追憶プレリュード<50>

「ほな、また明日にでも約束のデートしような藤沢ちゃん」 そう告げた幸樹は奈央と合流したことでお役御免という調子になり、あっさりと葵を下ろして立ち去ってしまった。 葵はそんな幸樹の様子に少し寂しさを感じずにはいられなかったが、生憎幸樹は温かな葵と密着していてつい、鎮めたはずの熱が再発しそうだったのだから仕方がない。 残された葵は奈央に寄り添われながら別館へと戻った。 葵はてっきり部屋の前まで着いたら奈央がすぐに自室に戻ってしまうのかと思ったが、”もう少し話そう”なんて言葉とともに一緒に部屋の中まで付き添ってくれる。 夜に静かな部屋で一人過ごすのは苦手だから、奈央の申し出は葵にとってありがたいものだった。 「薬、ちゃんと飲めた?」 窓辺に置かれた深い碧色のソファ。並んで腰掛けるなり、奈央からはそっと葵を気遣う声がかけられる。 「あ、えーっと…多分」 「多分?」 “頭痛薬”は処方されたがあの後すぐに幸樹に洗い流されてしまったから効果があるのか分からない。だから葵はそう答えることしか出来なかったのだが、曖昧な答えに、奈央からは不思議そうに見つめ返されてしまう。 なんと説明すれば良いのか葵が戸惑っているうちに、奈央から手が伸ばされた。 「……少し、熱いね」 前髪を軽く払って額に手を添えきた奈央がそう漏らす。確かに奈央の手がひんやりと冷たく感じるから、葵の体が熱を持っているのは間違いないだろう。 「明日は休んで、って言いたいところだけど…」 葵が発熱をしていると知って迷った様子を見せた奈央だが、続けられた言葉は葵のことを思いやる優しさに溢れていた。 「ずっと準備頑張ってたから休むのは辛いよね。僕も、明日はちゃんと葵くんと一緒に過ごしたいし。……だから今日はもう寝て回復させよう?眠るまで話しながら、ね?」 きっと休めと言われれば頑なに拒んでいたし、すぐに寝るよう促されただけだったらせっかくの奈央とのお喋りを楽しみたいという我儘を言ってしまっていたかもしれない。 でもこんな風に奈央に諭されれば素直に頷くことが出来た。 眠る前に温かいココアを飲むことを提案してくれた奈央は、一旦準備をしに部屋に戻ってしまった。その間に葵は眠る準備を一人で始めることにした。 さっき簡単に、とはいえシャワーを浴びてしまったから、あとはパジャマに着替えるだけでいい。 お気に入りの水色に白のストライプが入った上下揃いのパジャマをボストンバッグから取り出し、ベッドの上へと並べる。

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