133 / 1597

act.2追憶プレリュード<54>

* * * * * * 葵から一定のタイミングで穏やかな寝息が溢れ始めたのを見届けて、奈央は一息ついた。 でも冬耶から与えられた任務はこれで終わりではない。発熱している葵の体を冷ましてやること、腕の傷を確認すること、そしてそれを手当してやること。まだまだ気を抜いてはいられなかった。 葵の様子が落ち着いていることを確認した奈央は、まずは少し火照っている様子の体をケアしてやることに決めた。 冷水に浸したタオルハンカチを用意し、葵の額にかかった前髪を払って乗せてやると、一瞬びくりと体を跳ねさせたがすぐに心地よさそうな寝顔になってくれた。 本当なら氷枕の一つでも用意してあげたいところだが、それを借りるには医務室まで行かなければならない。冬耶があれほど警戒している場所に顔を出すのは奈央だって御免だった。 それに高熱ではなく、あくまで微熱。様子を見てこまめに冷やしてやればタオルでも十分効果が発揮されると思えた。 問題は、次なる任務のほうだ。 葵の両腕は大人しく布団の中に収まっているから、まずは葵を起こさないよう最大級の慎重さでそれをめくっていく。 現れたのは自分の体を抱きしめるようにして重ねられた両手。早く終わらせてしまおう、そう思った奈央だったが、実際に葵の袖に手をかけると躊躇いが生まれた。 恐らく一番葵が長い時間を共にしている京介相手にさえ、バレるのが嫌だという秘密を奈央が暴いてしまって良いのだろうか。 バレたことを知った葵がパニックに陥ると宣言されているのだから、奈央が戸惑うのも無理はない。 そうしてしばらく布団を剥いだまま迷い続けていた奈央は、葵が肌寒そうに寝返りを打ったことでようやく我に返った。 「ごめん、寒かったよね。……ん?」 眠り続ける葵に一声掛けながら慌てて布団を掛け直してやろうとしたその時、葵が身じろぎしたおかげで枕元から何かが覗いていることに気がついた。 以前、葵が教えてくれたことがあった。 見たい夢がある時は枕の下にその絵や写真を入れておくと叶うのだ、と。結局朝起きるとあまり覚えていなくて本当かどうかは分からない、なんて信憑性に欠ける情報提供だったが、そんな行動を愛しく思ったのはよく覚えている。 だからきっと何かいい夢が見られるものだろうと考えて、ほんの少しの悪戯心で枕からはみ出ている写真のようなものを覗き見た。

ともだちにシェアしよう!