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act.2追憶プレリュード<56>
奈央は一度パジャマを元通りに戻すと、布団を掛け直してやった。その作戦は功を奏したのか、葵はまた落ち着いた寝顔に戻ってくれる。
しかしそれもつかの間。今度は何の刺激も与えていないというのに、段々と葵の寝息が苦しげで不規則なものに変化してきた。
何が原因かは分からないが、奈央に出来ることはなだめるように髪を撫でてやることしかない。
どのぐらいそうしていただろう。葵の様子は良くなるどころか悪化する一方だ。寝苦しそうに体を動かすから、額のタオルはとっくに外れてしまっているし、布団も乱れている。
一度起こしたほうがいいかもしれない。奈央がそう思い出すほど、葵の寝姿は辛そうに歪んでいた。額には玉のような汗が滲み出し、呼吸も荒く乱れている。
「葵くん、葵くん」
尋常ではない葵の様子にたまらず肩を揺さぶってみるが、きつく閉ざされた瞼は開いてはくれない。
だが、葵の唇が微かに動き出した。しっかりとした声にはなっていないが、奈央が顔を近づけると何を葵が訴えているのか分かる。
“ごめんなさい”
葵が呟き続けるのは謝罪の言葉。そしてそんな言葉と共に葵は自分の腕を口元へと運びはじめてしまう。
行き着く先でどんな行為をしようとしているのか、傷を見てしまった今奈央にだって簡単に予想がつく。黙って見過ごすわけにはいかず急いで葵の腕を捕らえ口元から離すが、それでも目を覚ましてはくれない。
悪夢にうなされている様子の葵を救ってやりたいが、奈央にはどうしてやったらいいのか分からなかった。葵のこんな姿に遭遇するのは初めてなのだ。
だから散々迷った挙句、現状一番近くにいる葵の理解者を頼ることを選択した。
五度、六度とコール音が続き、奈央が繋がらないことを覚悟した時、訝しげな様子の低い声音が携帯から響いてくる。
『………高山さん?』
電話の相手は京介だった。彼を呼ぶように指示された状況とは若干異なるが、適任は彼しかいないだろう。
「ごめん、急に」
『いや、いいっすけど。何かあったんすか?』
冬耶と親しくなり、葵とも交流するようになって自然と京介とも会話をする機会が増えた。口や態度は悪いが、奈央相手には不慣れな敬語を使ってくれるし、こうして連絡すれば応えてくれる。
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