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act.2追憶プレリュード<61>
「…んッ……ふぁ…ん」
息継ぎのつもりなのか、それとも単純に逃れたいのか。京介が角度を変えてキスを仕掛けるたびに葵はもがいてみせるのだが、まだ許してやるつもりはない。
隙間から舌を差し込めば、案の定葵の口内はほんのりと血の味が広がっていた。だから丁寧に丁寧にその味も拭うように、口内全体を荒らして回る。
そうして京介の気が済んだ頃には、葵の目にはさっきまでとは意味合いの違う涙が浮かんでしまっていた。
「わかった?」
「……ン」
「じゃあ言ってみ?」
ジッと目を見つめあわせて中途半端になっていた問いを掘り起こせば、意図しない言葉が葵から返ってきた。
「京ちゃん、好き」
「……お前、今それ言う?」
自分が葵のことを好きだと分からせるために持ちかけたのに、葵から告白されてしまった。京介が秘める気持ちと同じ温度ではないが、嫌な気はしない。
それどころか、愛しさが溢れてたまらない。
「俺も。何度も言ってんだろ?いい加減分かれよ、葵」
そう言ってまた唇を重ねてしまう。
恋愛ごとには疎い葵のために、京介は随分ストレートに愛を伝えてきたはずだ。でも葵にはなかなか伝わらないし、最近異様にライバルが増えてきている。
「ちゃんと俺に頼って」
自分が傍に居られない時間も増えてきているからせめて一緒に居る時ぐらいは何でも自分に話してほしい。離れた距離を埋めるために、葵からも歩み寄ってほしい。
「兄貴と遥さん居なくて寂しいだけ?他に何かあったんじゃねぇの?」
伊達に付き合いが長いわけじゃない。冬耶と遥が卒業した後、葵が寂しさのあまり元気を失くすことぐらいは想定していた。
でも京介だけじゃなく、昨年から葵の心の支えになっていた都古も、そして葵が慕い始めた生徒会のメンバーも傍に居る。だからある程度食欲が減っているのは黙って見守っていた。時間が解決するだろうとのんびり構えていたのだ。
それがここまで悪化しているなんて、原因がそれ以外にあるように思えてならない。
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