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act.2追憶プレリュード<63>

* * * * * * 「ちょっと、何で西名がいるわけ?」 葵を眠りから覚ましたのは不機嫌なクイーンの声だった。 まだ眠い目を擦って起き上がると、櫻が腕組みをしてベッドサイドに立ちはだかっている。睨みつけている相手は葵の横でまだ寝続けている京介。 「……ッテ」 なかなか起きない京介に苛立ったのか、櫻は奈央が昨夜運び込んでサイドテーブルに置きっぱなしになっていたシルバーのトレーを手にして遠慮なしに頭を叩いてみせた。当然京介も痛みに目を覚ます。 「何なんすか」 「それはこっちの台詞。なんでここに西名がいるの?葵ちゃんのパジャマ肌蹴させて何やってたのかな?」 嫌な起こされ方をした京介が睨み返せば、櫻がそれ以上の剣幕でまくし立てる。学園内では女神とも謳われる美麗な顔立ちが、今はすっかり般若のように歪んでいた。 昨夜具合が悪いと言って部屋を飛び出した葵を気遣って夜這いをかけるのは我慢したのだ。でもその代わり朝は一番に葵を起こしに来ようと、櫻は決めていた。 だから自身の寝起きの悪さを物ともせず、喜び勇んで合鍵でこうして乗り込んできたというのに。愛しの後輩はちっとも可愛げのない不良の抱き枕にされ、しかも服まで脱がされている有様。櫻が苛立つのも無理はなかった。 「あの、おはようございます、櫻先輩」 「もうちょっと空気読んで、葵ちゃん。でも…おはよ」 段々と覚醒してきた葵から律儀に挨拶されれば、櫻も思いがけない言葉に怯んでしまう。 「こんなことなら一緒に寝れば良かった」 京介が見ているのも構わず、櫻はそのままぎゅうと葵を抱きしめて柔い体の感触を堪能する。だが隣の不良が移したのだろう不快な煙草の匂いが葵から漂ってきて、櫻の機嫌はまた急降下した。 「とにかく西名は出て行ってくれない?前年度会長の弟だからって特別扱いされると思ってるの?」 「思ってねぇよ」 「なら早く」 元凶を追い出すことに決めた櫻は、まだ堂々と葵のベッドに横たわっている京介にもう一度脅すようにトレーを振りかざすと、ようやく立ち去る意思を見せてきた。 「じゃあ葵、またな。無理すんなよ。で、試合ちゃんと観に来い」 「うん、楽しみにしてる」 京介は櫻の予想を裏切って案外あっさりと身を引いた。でも櫻の分からない会話をして、親しげに微笑み合っているのを目の当たりにするとやはり面白くはない。 京介が出ていった扉を少し寂しげに葵が見つめ続けるのも櫻にとっては悔しい。

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