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act.2追憶プレリュード<65>
「おはよう葵、今日も可愛いよ」
「ちょっと、人の肩口でキスするのやめて」
伊達にプレイボーイだったわけではない。忍は櫻に構わず、葵に甘い台詞を吐くとあっという間に唇を奪ってしまう。自然と葵を抱えていた櫻の耳元で行われることになるのだからたまらない。
「わかった、じゃあ譲歩する。三人で入る、それならどう?忍」
「話が早いな、賛成だ」
忍が引く気がないと知って、櫻はやむを得ずそんな提案を持ちかければ即答で満足げな笑みが返ってきた。
「あの、ほんとにダメです、一人で入れます」
「入浴してる最中にまた具合が悪くなったらどうする?」
「そうそう、僕らが居たほうが安心でしょ?」
二人がかりで脱衣所に押し込めればもう葵の逃げ場などない。パジャマの前を必死に手繰り寄せて脱がされまいとしているが、そんな仕草さえ可愛くて仕方ない。
「上脱ぎたくないなら下からにする?」
「……櫻、あまり苛めすぎるなよ?」
ガードされていないパジャマのズボンに手を掛ければ葵の体はビクリと跳ねてしゃがみこんでしまった。ふるふると頭を振って嫌がる姿は今すぐにでも食べたくなるぐらい櫻にとっては魅力的だが、意外にも忍は冷静な声で邪魔をしてくる。
「始業式の日の二の舞いになるなよ」
まだ忍は、櫻がお子様な葵相手に暴走したことを根に持っているらしい。葵が恥ずかしがるぐらいなら一緒に苛めに乗じてくるが、泣くほどの行為を無理強いしたいわけではないようだ。
そんな友人の一人だけいい格好をしようとするポーズが気に食わない。
「言われなくても分かってるよ。でも葵ちゃん、エッチなことが嫌なわけじゃないみたいだよ?」
「……どういうことだ?」
いくら余裕ぶっていても毎晩学園中の可愛い子を食い散らかしていた忍が、葵に恋してからというもの禁欲状態なのは櫻もよく知っている。彼のプライドを崩すワードをもたらせれば、存外素直に乗ってきてくれた。
「昨日の夜葵ちゃんは西名と寝てて、で、パジャマのボタンは全開。おまけにお腹に白い跡がすこーしこびりついてた。拭き取りきれなかったんだろうね。……何があったか忍なら想像つくでしょ?」
葵の耳に入らない程度の声量で忍に自身が目撃した事実を伝えれば、すぐにノンフレームの眼鏡の奥の瞳の色が変わる。
「ほう…興味深いな」
「でしょ?なだめればそのぐらいは出来ちゃうと思うんだけど」
「……だな。そろそろ”健全なお付き合い”にも飽きてきたところだ」
ようやく忍は櫻の意図を理解したようだ。いくら付き合いが長いとはいえ、京介はまだ葵にとっては幼馴染でしかない。そんな存在が行えることを自分たちが許可されないなんて、絶対にあってはならなかった。
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