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act.2追憶プレリュード<67>
「あっやっぱりダメです」
慌てて肌蹴たパジャマを手繰り寄せた葵は、不意を付いて二人の間から滑り抜けてしまう。
「あ、こら葵ちゃん」
「待て葵」
獲物を逃すまいと櫻も忍も手を伸ばすが僅かに届かず、葵はバスルームから飛び出していく。そしてそのまま廊下へと逃げてしまった。
もちろんその姿をすぐさま追いかけていったが、獲物は廊下で思わぬ人物の腕の中で確保されていた。
「……二人して何してるの?」
葵が保護を求めるように抱きついているのは奈央だった。どこぞの王子のように品のある爽やかな顔立ちは今完全に引きつってしまっている。
葵の背中を撫でるのとは逆の手に水玉模様のマグカップを持っているから、葵にそれを届ける最中だったのだと予測がついた。
「昨日葵ちゃんが西名連れ込んだみたいだから、お仕置き?」
「規約を破ったのだから罰を与えるのは当然だろう」
奈央からの追及に櫻も忍も悪びれもせずにやり返してみせる。でもそれがますます奈央の眉間に皺を寄せることになった。
「西名くんを呼んだのは僕だから。葵くんを責めるのは筋違いなんだけど」
詳しい顛末を口にせずとも、昨夜の流れは予測が付いたらしい。なぜ奈央が京介をわざわざ呼び出したのか。答えは葵が昨夜見せた体調不良に繋がるものに違いなかった。
さすがの二人もそれ以上葵を責め立てるのは無茶だと判断し、つまらなそうに、ではあるが、渋々納得した素振りを見せた。
しかしあと一人、奈央の腕の中の葵は驚いたように顔をあげる。
「……京ちゃん呼んでくれたの、奈央さんだったんですか?」
悪夢にうなされている内の出来事だから葵が覚えていないのも無理はない。葵の中では、不意に現れた京介が自分をまた眠りに付かせてくれたことぐらいしか記憶に残っていないのだ。
「あ、うん…また具合悪くなっちゃってたみたいだから…」
なんと説明すればよいか分からず、奈央は一気に歯切れが悪くなってしまう。
そんな奈央の様子を見て、葵も何を奈央が知ったのか不安を覚えたように瞳を揺らし始める。
「あーあ、つまんない。早く朝食行こ」
「だな、葵はまず着替えて来い」
さっきまで葵を苛めて楽しんでいたというのに、助け舟を出したのは櫻と忍だった。葵は指示を受けて少し躊躇ってみせたものの、素直に自室に戻っていく。
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