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act.2追憶プレリュード<69>
* * * * * *
文化部の発表が行われるホールと、運動部が試合を行うグラウンド、そして体育館の三地点を繋ぐ中心部に簡易的なテントが立てられている。歓迎会の本部として生徒会や教員たちが集う本部のようなものだ。
「じゃあ見学して気になった部活の名前をこの用紙に書いて、夕食までにそこのボックスまで提出してね」
「はい、ありがとうございます!」
テント内に設置された受付で新入生たちの対応しているのは葵。
今日の部活動の紹介では、新入生たちが見学をして良かったと思う部活を投票するシステムになっていた。
上位に入れば部活動への予算も考慮されるし、奪い合いになっている練習場所や合宿所の選定にも有利になる。
「それから、もしそのまま入部を希望する場合は、ここに届けがあるから声かけてね」
葵がこうして目の前の新入生一人ひとりに優しく対応するおかげで、間近で葵を拝むという願望を満たそうと、新入生の長蛇の列がテントへと続いている状態。
中には新入生ではないくせに、一年の証である緑色のネクタイを今だけ身につけて列に並ぼうとする輩まで現れる始末。
そんな光景を冷めた目で見守っているのは、同じテント内に置かれた椅子に腰掛けてジュースを片手にくつろぐ二年の双子、七瀬と綾瀬。
「相変わらず人気だねぇ葵ちゃんは」
「藤沢は生徒会の中では親しみやすいキャラクターっていうのもあるんだろうな」
二人は部活にも入っていないし、興味もない。当然歓迎会の間は暇で仕方ないのだが、京介に助っ人を依頼されたバスケの試合までの時間潰しとして、こうして葵の傍でその仕事ぶりを観察しているのだ。
「っていうかさ、都古くん、なんで裸足なわけ?」
七瀬がさきほどから気になっている疑問を綾瀬にぶつけてみる。
実は新入生を対応している葵の足元に黒い塊がいる。昨夜葵を探し回った挙句、結局すれ違って会うことが出来なかった都古は、その時間を埋めるように葵の膝の上に自分の頭を乗せてべったりとくっついて離れないのだ。
「さあ…?烏山の行動をいちいち気にしてたらキリがないよ」
「でもさ、裸足でバスケやるつもりなの?浴衣だし、勝つ気あるの?」
「それは烏山に直接聞いて、なな」
七瀬の指摘通り、都古は昨日身につけていたままの浴衣姿で、そしてなぜか裸足なのだ。先程葵の手によって拭かれたから今足裏は綺麗になっているが、登場した時は真っ黒に汚れていた。
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