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act.2追憶プレリュード<70>

都古は周りが気にかけてやらないと、自分のことに関してはとことん無頓着だ。その反面、葵に近寄る不届き者に対しての警戒心はとてつもない。 今だって、葵と会話したことで熱に浮かされたように舞い上がっている新入生たちを、逐一ギロリと睨みつけて牽制している。もちろん、葵にバレないよう、静かに。 でもそんな都古が不意に立ち上がって葵を抱きしめ、警戒を一層強化させる人物が現れた。 「おはようございます、葵先輩」 「あれ?爽くん、おはよ」 長蛇の列を割って顔を出したのは一年の双子の片割れ、爽だった。いつも相棒の聖と共に現れるのに今日は珍しく一人でやってきていた。 傍から見れば双子のうちの一人だということしか分からないが、葵はあっさり見分けることが出来る。 でも爽に会えて葵が喜んだのはつかの間。明らかな横入りに後列の生徒たちが不満を零し始めたのを見て、葵は先輩らしくしっかり注意してみせる。 「爽くん、皆並んでるから…ごめんね?」 「あぁ、大丈夫です。用あるの烏山先輩のほうなんで」 「みゃーちゃんに?」 爽は葵から注意されるとすぐに列から外れ、すぐ後ろの生徒に受付の順番を譲った。そして都古に対して、昨日放置されたままの赤い鼻緒の草履を差し出す。 「これ、せっかく烏山先輩の部屋の前に置いておいたのに。部屋、戻らなかったんすか?」 「爽くんが持ってたの?」 「持ってたっていうか、烏山先輩が放置してったのを拾ってあげた感じっす」 「そうだったんだ…ありがとね。ほら、みゃーちゃんもお礼言って?」 差し出された草履をひったくるように奪って身につけた都古。爽が昨夜予想した通り、そこには感謝の気持ちは微塵もない。 飼い主として葵が代わりに礼を言った上で猫にも同じことを促すが、都古は口が裂けても言うものかとばかりにそっぽを向いてしまっている。 昨日自分の居ない隙にこの双子が手を出しているのを察しているから、礼を言うなんて屈するようで嫌なのだ。 「ごめん、爽くん。ちょっと待っててね」 「お構いなく。俺も適当にくつろがせてもらうんで」 埒が明かない様子を見て、葵は一旦受付の仕事に戻ることに決めた。そんな葵に気を使わせないよう爽はにこりと微笑むと、勝手にテントの中に入り込み、空いている椅子に座ってしまう。 都古は当然不満そうにするが、爽がこれ以上葵にくっついてこないと知って、また葵の膝の上に己の頭を乗せてべたべたと甘える姿勢に戻った。

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