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act.2追憶プレリュード<72>

「藤沢、ただのじゃれ合いだから。気にしないで仕事続けて」 七瀬の行動をフォローするのは、綾瀬の役目。心配そうな葵の視界に揉め事を映さないよう自分の体でガードしながら、注意を目の前の新入生へと戻してやる。 「あのね、葵ちゃんはそういうの過敏なの。だから表面上君たちとも始業式のあとからずっと一緒にランチしてあげてるわけ。でもこの均衡崩すつもりなら容赦なく追い出すからね」 七瀬は幼い顔立ちに似合わず辛辣だ。 双子を自分たちのコミュニティに入れてやったのは葵のため以外の何物でもないと宣言されると、先輩たちと仲良くなり始めていたと思い込んでいた双子にとっては非常に辛いものがある。 「っていうか、君ら仲違いしてる場合?京介っちに都古くん、生徒会。付き合いの浅い君らが単品で勝てると思ってんの?」 切れ味バツグンの七瀬の責めは双子の痛いところを的確に突いてくる。確かに今の双子に単独で葵を口説けるだけの度量はまだない。 「とにかく、ここでこれ以上騒いだり、都古くんのこと挑発するんだったら出てってね。あんなのでもななの大事な友達だから」 悔しげに、そしてどこか傷ついたような顔をして黙り込む双子に対して、七瀬はそう締めくくった。 “あんなの”と都古を示す辺り毒はあるが、七瀬が聖と爽よりもずっと都古を大切に思っているのは確かなようだ。 その都古はもう二人には興味がないと言いたげに、また定位置である葵の足元に丸まってしまっているし、綾瀬も七瀬に対応を任せ、葵の手伝いをしてやっている。肝心の葵も、新入生相手にニコニコと微笑んでいた。 ここに居場所がない。聖と爽にそう思わせるには十分すぎる状況が揃ってしまっていた。 「行こ、爽」 さっきまで揉めていたというのに、二人まとめて敵とみなされてしまえば互いを頼るしかない。聖がお兄さんらしく、爽のカーディガンを掴んで引っ張れば、爽も名残惜しそうにしながらも席を立った。 「別に、静かにするなら居てもいいって言ってるのに。そんなに都古くんと揉めたいのかな?」 七瀬だって葵が二人のことを可愛がっているのは理解しているから嫌な役を買って出たのだ。その意図を汲んでもらえなかったため、少しバツの悪そうな顔をして恋人を見上げる。 「烏山も無駄に相手を挑発するタイプだから、ぶつかるのは仕方ないよ」 綾瀬は七瀬を慰めるように抱き寄せて、生意気な双子と無愛想な猫を見比べてみせる。 そもそも都古に誰かと仲良くしろなんて願うほうが無茶なのだ。綾瀬や七瀬だって、友人の一人としてカウントしてはいるものの、仲介役の葵が居なければまともに会話だって出来やしない。

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