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act.2追憶プレリュード<87>

高校一年の一学期、入学式で葵と出会い共に過ごすようになってから都古はその笑顔に沢山癒やされ、支えられてきたけれど、同時に葵の心を時折覆い隠してしまう影も度々目撃してきた。 中でも都古が葵のこの行為を見咎めたのは、これで四回目だ。初めて目の当たりにした時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。その時はただ都古自身も動揺を隠せずに何もしてやれなかった。 しかし二度目で幼い頃から葵の傍に居た西名家の兄弟や、遥の対処方法を冷静に見て学び、三度目で自分なりの対応を編み出すことが出来た。 だから、四度目の今、都古は随分と落ち着いて葵の傍に控えていてやれる。 「みゃ、ちゃん」 温かなお湯に浸かってほんのりと頬を上気させた葵が、ようやく都古の名呼んでくれた。 都古に初めてその行為を知られた葵は随分と取り乱してしまったが、四度目ともなるとその混乱の度合も随分と減った。都古がそれを知っても葵を嫌いになることがない、と信じ始めてくれている証拠だ。 「アオ、何が、つらい?」 自分の体を噛まずには居られないほど、葵が何かを堪らえようとした証拠。だから覚醒してきた葵に、都古はまずそう尋ねた。 でも葵は”何もない”と言いたげに首を横に振るだけ。そして今度は葵のほうから縋るような目を向けられ質問を返されてしまう。 「みゃーちゃんはつらいとき、どうしてる?」 「俺は…アオ、いれば、平気」 その言葉に嘘はない。 葵と出会ってから都古の人生は一変し、葵と居ることが都古の幸せに変わった。他には何も要らない。葵だけ居れば十分。 「アオ、大好き」 葵からの質問の答えとしては適していないかもしれない。でも葵も早く自分のように、都古だけ居ればいいと、そう思ってほしいから。 湯船に浸かったままの葵にキスを落とすのは普段するよりも少し体勢に気を使わなければならないが、無理ではない。身を屈めて覗き込むようにしてまずは葵の頬に己の唇を触れさせる。 葵は少し驚いたようだが、拒むことはしない。 初めて葵に触れた時もそうだった。 男である都古が愛を告げて触れることに対して、抵抗されるのも無理ないと覚悟はしていたが、西名家や遥にたっぷりと愛情を注がれて育ってきた葵は”キス”ですら普通の挨拶だと思いこんでいる節がある。だからあっさり都古を受け入れてくれた。 都古はその時は安堵したが、早く特別な関係に持ち込みたい場合、厄介でもあると気が付き始めていた。

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